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医師

既に摂食障害に対する多職種チーム医療が継続して行なわれている医療機関を除けば、医師以外の職種には摂食障害に対する知識や治療経験が少ないことも多く、摂食障害のチーム医療における医師の役割はとても大きい。

医師は病態水準を把握し、患者の治療段階にそって患者が同意した治療を多職種と協働してすすめていく。入院で他の職種と治療をすすめる場合、事前にカンファレンス等で一般的な治療方針を伝えておくことが望ましい。また、入院後起こりうる身体面・心理面・行動面の変化や問題(特に病棟管理上問題となるような内容)を事前に評価し、対処法を指示として明記すると良い。栄養指導や作業療法など他の職種に依頼をする場合には、患者の概要と共にニーズを明確にしておくと良い。

患者は思っている事を医療者へ伝えられず行動化することも多いため、それらを理解して対応することが必要である。チームの特定の人間が患者の行動化の対象となることもあるが、患者の言動に過度に振り回されず、客観的に起こっていることを把握し、患者の病理として理解し、チーム内で情報を共有し一貫した対応ができるように医師がマネジメントすることが大事である。

摂食障害の多職種チーム医療における医師の役割
  • 摂食障害の治療には身体管理や精神療法が重要となるため、チームでの関わりが特に重要である
  • 患者の病態水準・治療段階・ニーズを把握し、必要なタイミングで、他の職種に介入を依頼する(患者の概要とニーズを明記しておく)
  • 患者は本当のことを言わない(言えない)ことがあり衝動行為も多いので、本人の意図することを想定し、チームで情報や治療方針を共有する必要がある
  • 摂食障害の病理から医療者が操作されることもあるが、客観的に起こっている事を把握しチームとして一貫した対応ができるように医師がマネジメントすることが大事である

看護師

医師は時に厳しい対応が求められることも多いことから、看護師はしばしば優しく支える役割が求められる。摂食障害患者は、自己肯定感が低く自己表現に乏しいが、ありのままの自分を認めてくれる存在を望んでいることが少なくない。看護師は、時には患者が言語化できない気持ちを代弁しながら、小さなことでも患者の変化を認め、共感的・受容的に寄り添っていく。例えば、治療への抵抗感を「太るのがこわいのですね」「過食嘔吐をしたい気持ちもあるのですね」と認める一方で、ちょっとした食事量の増加や本人の回復への努力は積極的にほめたりねぎらったりするような対応をとる。入院環境は外部からの刺激の遮断や安静の場であるとともに、対人関係を学び、健康的な情緒の回復やストレスコーピングスキルを身につける小さな社会であると言える。患者が医師との治療における約束事が守れるよう、看護師は統一した対応で接することが必要であり、身体面・心理面の変化についてスタッフ間での情報共有が不可欠である。行動の問題などはその場で指摘するが、患者を叱責するのではなく、客観的な事実の指摘にとどめて本人の行動を見守ったり、なぜそのような行動をとったかを一緒に考え具体的な解決法の選択肢を示したりしながら、患者が自身の問題と向き合えるよう促していくことが望ましい。

歯科医療者(歯科医師、歯科衛生士)

摂食障害では合併症として歯科的問題が起きることは稀ではない。歯科医療者は患者の歯を含む口腔内を治療し、予防するだけでなく、酸蝕の状態などから摂食障害を発見できる立場にもある。その上患者が摂食障害治療に消極的であったり、ドロップアウトしている場合、唯一の医療機関との繋がりともなり得る。この場合は患者を必要に応じ医科受診させるという役割も担うこととなる。

また歯科診療にあたっては医科受診の有無に関わらず摂食障害症状を寛解に向かわせる、少なくとも悪化させない診療計画、対応が必要であり、近視眼的に歯科疾患のみを診るのではなく身体症状や生活習慣、特に食習慣に常に気を配り診療にあたることが求められる。

そのためには何よりも摂食障害に対する正しい認識と知識を準備しておく必要があろう。

心理士

臨床心理士は主治医と連携をとりながら、主に次のような4つの関わりを通じて、摂食障害からの回復を支援する。

  • 1. 心理教育を行う:摂食障害について心理教育を行うことで、摂食障害に特有の考え方や行動パターンがあることを理解してもらう援助をする。
  • 2. 治療への動機づけを高める:摂食障害による考え方・行動と自分自身が本来的にもっている価値観を区別し、摂食障害による考え方・行動とは異なる自分自身を見出せるよう、援助する。症状に影響されない考え方・行動の領域を広げていき、治療への動機づけを高め、維持できるよう援助していく。
  • 3. 症状の対処法の獲得を援助する:異常な食行動に対抗するための認知的・行動的なコーピング手段の案出を協同して行い、健康な食行動を維持できるように援助する。
  • 4. 年齢相応の発達や社会適応を促す:病気によって遅れてしまった発達課題の達成や、社会的スキルの獲得を促し、社会への適応力を高める援助を行う。

このほかに心理検査の実施を担当することもある。

栄養士

管理栄養士は医療福祉や教育、行政など幅広い分野で栄養の指導に従事する専門職である。なかでも、病院の栄養士は多職種と協同して患者の栄養管理を実施し、適切な栄養補給ができるよう質の高い食事提供や衛生的かつ安全な給食管理を運営している。また、患者が食事療法を正しく身につけられるように入院や外来にて栄養食事指導を行なっている。

摂食障害の治療において栄養指導は重要な意義がある。単に栄養・食事に関する正しい知識の助言にとどまらず、患者の食事から摂取栄養量や食品選択の傾向を把握したうえで具体的な食事摂取量や食品の提案、調理の工夫について指導ができる。また、食に対して誤った認識を持っている患者を栄養学的側面から支え行動変容へ導くことで少しずつ治療効果へ結びつけることができる。知識を伝える際には、摂食障害患者の過度の一般化や選択的抽出などの認知的特徴を理解しそれらに配慮して行なうことが重要である。

管理栄養士が摂食障害患者を担当するときのポイントを図に示す。このうち多職種連携は大切である。医師、看護師、心理士等と目標や現状について情報共有し、チームで患者に対応することで混乱を防ぎ、栄養療法や栄養指導が安全で効果的に実行できる。

管理栄養士が摂食障害患者を担当する際のポイント

作業療法士

作業療法士とは、病気やけが、もしくは生まれながらに障害がある人など、年齢に関係なく、日常の生活に支援が必要なすべての人が、「その人なりの、その人らしい生活」を送れるようになるために、「作業」を通じて支援していく職種である。

摂食障害に対する作業療法は、患者の身体機能がある程度安定した状態になってから、社会適応の準備・練習として開始される。作業療法の目的と活動内容の一例を以下に示す。

摂食障害に対する作業療法の目的と活動内容の例
<目的>
  • 摂食障害の症状にとらわれず、楽しむ時間を提供する
  • 作業活動を通じて「できること」を少しずつ増やしていき、他者に認めてもらう体験や自己評価を高める機会を提供する
  • 軽めの身体的活動を利用し、自分の身体の状態(体力、疲れやすさ等)を正確に把握してもらう
<活動内容>
  • 創作活動(塗り絵、折り紙、ビーズ細工、編み物など)
  • 軽スポーツ(ストレッチ、ヨガ、散歩など)
  • レクリエーション
  • 園芸

・・・など

作業療法実施の際の工夫や注意点として、患者の「できない部分」だけでなく、「できる部分」や健康的な側面を評価し、患者や他職種にフィードバックしていくことが挙げられる。また、患者のこだわりに対しては、許容できる範囲で理解を示していく。しかし、無理なことははっきりと伝え、一貫した対応を行うことで、安定した関係性の構築が可能となる。そのほかに、ものの溜め込みなど、症状に起因すると見られる行動を助長しないよう、作業療法で使用する道具の扱いには十分注意をする必要がある。

理学療法士

摂食障害では基礎体力低下を呈し、まれに歩行困難な状態に陥る場合がある。とりわけ筋委縮が問題になるが、これには廃用症候群とサルコペニアが混在する。加齢によるサルコペニアはモーターニューロン減少に起因するが、若年のサルコペニアは飢餓によるもので神経学的問題は無いと考えられる。理学療法士は、適切な運動負荷量設定とプログラムを立案し、対象者の体力を回復させ、社会復帰を支援する。摂食障害に対する運動指導の注意点は、栄養状態に配慮しながら進めることである。過負荷は、たんぱく異化を助長し筋肥大を妨げる可能性があるからだ。従って、低栄養状態でのレジスタンストレーニングは慎まなければならない。一般的には、歩行や自転車エルゴメーターなどの有酸素運動が推奨される。負荷は2Mets程度で開始し、体重とアルブミン値等を指標に負荷量を調整する。栄養状態と体重が回復したらレジスタンストレーニングが可能になる。表に運動負荷の目安として理解しやすい身体活動のMetsを紹介する。また、摂食障害の病態を理解し、過活動を助長しないようにする注意も必要である。

さまざまな身体活動の運動強度(Mets)1)

引用文献

  • 1)Ainsworth BE, et al. Med Sci Sports Exerc 43: 1575-1581.

薬剤師

我が国において摂食障害が適応疾患となっている薬剤はなく、薬物療法は精神療法や栄養療法の補助的な位置づけとされている。

患者の訴える精神症状や身体症状に対し、適応疾患のある場合は各種薬剤が対症療法として使用されるが、副作用を強く気にする傾向のある患者の服薬指導は容易ではない。服薬指導は薬剤師としての責務であるが、患者の特性を踏まえない画一的で一方的な指導は、患者の恐怖や不安をあおり、時には拒薬へつながることも危惧される。薬剤師が病態や治療方針を理解することが必要不可欠であり、患者に情報を一方的に与えるよりも、薬剤に関する質問からその奥にある患者の不安や訴えを引き出し、傾聴、受容し、必要に応じてカンファレンスなどで他職種と情報を共有し連携していくことが望ましいと考えられる。

また、利尿薬乱用に伴う偽性バーター症候群や、自己誘発性嘔吐による低カリウム血症補正時のカリウム製剤の選択(低クロル血症・代謝性アルカローシスを伴うためグルコン酸カリウムではなく塩化カリウムを用いる)など、摂食障害の病態生理と薬剤の関係についても理解しておくことが望ましい。

今日、医学的根拠に乏しい情報がソーシャルネットワーキングサービスなどに掲載されており、摂食障害患者がその影響を受けることがある。中には下剤を乱用する患者もおり、弊害として電解質異常や腎機能障害など重篤な有害事象に至る場合もある。調剤薬局やドラッグストアの薬剤師が市販薬購入時の面談においてゲートキーパーとなることが期待される。

ソーシャルワーカー

ソーシャルワーカーは、クライエントを生活者と位置づける。そして生活者が病気や障害を持ちながらも質の高い生活が送れるよう、主体性をうながし自己決定できるよう支援し、生活問題の解決や取り巻く環境を整えることに共に取り組んでいる。主に大学等で社会福祉学を専攻し、社会福祉士や精神保健福祉士などの資格を取得している。

医療機関においては、入院中・通院中患者の生活の心配事に対しての支援を行っている。例えば、退院後の生活環境を整えること、生活費や医療費など経済的問題に関すること、就労や進学等の社会復帰に関すること、病気や障害の受容・家族関係や虐待など心理社会的な問題に取り組むことなどである。また精神科デイケアでは多職種チームの一員としてリハビリテーションに取り組んでいる。また行政機関においては福祉関係部署にて相談業務にあたったり、ニーズに合ったサービスを創造するなど地域づくりの一翼を担っている。その他社会福祉施設や司法・教育・産業保健領域などに活動の幅を広げている職種である。

摂食障害患者に対しては、主に医療機関や行政機関で支援をしている。特に慢性化した摂食障害患者では、福祉サービスの利用や、就労支援やデイケアの利用などの社会復帰への支援が必要になることが多く、ソーシャルワーカーの関与が重要となる。また、家族などの周囲のサポートが少ない患者の場合、居住地域の保健師とのつながりや訪問看護の導入、またソーシャルワーカーとのかかわり自体がソーシャルサポートとして治療にプラスに働くことが期待される。

スポーツ指導者

摂食障害はスポーツ選手の間でも珍しくありません。自分が摂食障害であったことを公にしている著名選手の話を耳にした方も多いと思いますが、一流選手に限った話ではなく、学校・大学の部活動やスポーツクラブに所属する若年者でも起こりうる話です。また、女性でも男性でも起こりえます。摂食障害の発症には、記録や対戦成績などに関するプレッシャー、体操競技や中長距離走などでみられるような体型・体重の維持の必要性が、発症リスクを高めているのではないかと考えられています。陸上長距離走、体操・新体操、バレエ、フィギュアスケートなど体重や体型が競技成績につながる種目の女子選手は、体脂肪率が低く、無月経率が高いことが知られています。体重制限を求められる種目の選手は摂食障害の危険群です1)

もちろんスポーツやスポーツのための体重コントロールそのものが悪いということではありません。高度なアスリートの食事に対する配慮や習慣は、パフォーマンスの強化を目的とし、十分な栄養摂取に力点が置かれています。しかし、行き過ぎた体重コントロールや、一人の人間としての選手の存在を忘れ記録や戦績ばかりに目を向けてしまうような指導は望ましくなく、体重や体型よりむしろ本人のやる気や熱心さなどに目を向けた指導が良いとされています。

また、スポーツ指導者は普段から選手の健康状態に注意していることから、小さな変化や摂食障害のサインにも早くから気づきやすい立場であるといえます。一般的な摂食障害のサイン(「摂食障害のサイン」を参照)のほかに、スポーツに関連することとして、下記のようなサインがあります。

アスリートの摂食障害に気づくきっかけとなるサイン2)
  • 1. 必要以上に食にこだわるようになる
  • 2. 周囲から見ると過剰なトレーニングスケジュールを立てて実行している
  • 3. 体重変動が大きすぎる
  • 4. 食事やトレーニングに置いて、他の人との接触を避けるようになる
  • 5. 生活全般において、孤立傾向が目立つ
  • 6. 睡眠リズムなど、生活リズムの乱れが目立ってきた

また、乱れた摂食、無月経、骨粗しょう症の「女子アスリートの三主徴」1)と呼ばれる症状にも注意が必要です(図1)。乱れた摂食(極端な食事制限や過食・嘔吐など)により消費カロリーが摂取カロリーを上回ると、女性ホルモンの低下(無月経)が起こり、それが骨粗しょう症につながります。骨粗しょう症は疲労骨折の原因となり、パフォーマンスや選手生命に影響します。この三つの症状のうち一つを示しているようであれば、他の二つがあるかどうかを確かめ、さらに摂食障害があるかどうかを確認することが重要です。

図1

過剰な食事制限や過食、嘔吐や下剤の大量使用、無月経、極端なやせなどの摂食障害のサインもしくは、アスリートの摂食障害に気づくきっかけとなるサインに気がついた場合には、ご家族と相談の上、早めに医療機関を受診するように勧めてください。また、学校の先生や養護教諭、スクールカウンセラーの先生とも相談されると良いでしょう。

本来健康が増進されるはずのスポーツも、度が過ぎると命の危険につながりかねません。骨粗しょう症など将来に渡る影響が残ることもあります。健康状態によっては、スポーツ活動を休止する必要がある場合もあります。ですので、摂食障害は早期に見つけ、治療していくことが大切です。在学中のスポーツパフォーマンスだけでなく、卒業後も含めた健康を視野に入れて、理解と配慮ある指導をお願いしたいと思います。

スポーツが摂食障害を招くことを防ぐには、指導者にも運動選手自身にも正しい栄養摂取や摂食障害の予防についての知識が必要です。下記の手引き1)3)4)5)を参考にしてください。

引用文献

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