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摂食障害は食行動異常とそれに伴う認知や情動の障害を主徴とした疾患である。主な摂食障害である神経性やせ症・神経性過食症に加えて、DSM-5では新たに過食性障害・回避制限性食物摂取症も摂食障害の診断に加わった。ここではこの4つの疾患について概説する。

神経性やせ症

神経性やせ症(anorexia nervosa)では、ボディイメージのゆがみがみられ、明らかな低体重・低栄養状態にも関わらず、患者はその重篤さを認識できない。患者の自己評価は体型・体重に大いに依存しており、体重が増えることを極端に恐れたり、さらに減量しようとしたりする。食事摂取量を著しく減らす患者がいる一方で、それだけでなく、反動で過食し、嘔吐や緩下剤・利尿薬の不適切な使用により体重増加を防ごうとする患者もいる。従来、神経性無食欲症や神経性食思不振症などと呼ばれてきたが、必ずしも患者の食欲は低下しておらず、肥満恐怖のために食事が食べられないのである。そのため、これまでの神経性無食欲症や神経性食思不振症という病名は疾患の本態を現していないとの指摘を考慮し、米国精神医学会の診断基準であるDSM-5の日本語版では神経性やせ症という新しい病名がつけられた。

症状

身体症状としては、正常下限を下回るやせがあり、成人ではBMIが15kg/身体症状としては、正常下限を下回るるい痩があり、成人ではBMI(注)が15kg/m2未満になると最重度と診断される。低血圧、徐脈、低体温、無月経、便秘、下肢の浮腫、贅毛、皮膚の乾燥、手掌や足底の黄染などがみられる。過食嘔吐がある場合には、唾液腺腫脹や手背に吐きだこがみられる。血液検査では脱水、貧血や白血球減少、肝機能異常、低タンパク血症、高コレステロール血症、低T3症候群などがみられ、嘔吐や下剤乱用などの排出行動による低K血症、極端な塩分制限や多飲による低Na血症、過活動によるCPK上昇をきたす。脱水により一見データが正常に見えることもあるので注意が必要である。その他心電図でQT延長やT波異常、MRIで脳萎縮などもみられる。骨粗しょう症や腎機能障害はしばしば非可逆的である。

精神症状としては、飢餓の影響で抑うつや不安、強迫性が増強する。また、根底には自尊心の低下が存在している。 病識がないため、親や医療者との関係が悪化することがある。体力低下に伴い、学業や仕事の能率の低下もみられるようになり、日常生活にも支障が生じる。

注:BMI(Body Mass Index) = 体重(kg) / (身長(m))2 18.5未満はやせと分類される。

精神疾患併存症

神経性やせ症は様々な精神疾患を併存することがある。併存しうる精神疾患として、抑うつ障害、双極性障害、不安症(社交不安症、パニック症など)、強迫症、パーソナリティ障害、神経発達障害、アルコールその他の薬物の物質使用障害(乱用・依存)などがある。これらの併存のため摂食障害の治療がより複雑になるが、それぞれの病態に応じた治療や工夫が必要である。

経過と予後

患者は病識に乏しく、受診が遅れがちで、極端な体重低下のみならず、全身倦怠感、無月経、便秘などで非専門医を受診することも多い。経過は複雑で、神経性やせ症の摂食制限型は、しばしば過食排出型や神経性過食症に移行する。体重や月経、さらに、認知面も含めた完全回復には年単位の時間がかかることもある。本症の死亡率は6~20%で、他の精神疾患より高く、極度の低栄養に起因する衰弱死、不整脈、感染症、自殺などが主な要因とされている。予後不良因子として、過食嘔吐、下剤乱用、罹病期間の長さなどが挙げられており、早急な介入が望まれる。

治療

治療では、食行動の改善、それに伴う身体面の改善(体重増加・月経回復)、心理面の改善、学校や職場での適応などを目標とする。認知行動療法、家族療法などの心理療法のエビデンスが報告されている。薬物療法としては、オランザピンの適応症が併存する患者では、オランザピンが強迫性の低減、体重増加の助けになる可能性がある。

当事者は家族に連れられて受診することが多い。低栄養による身体・心理面への悪影響の教育は、治療動機の確立に極めて重要となる。その上で、食事は、三食の規則正しい摂取を促し、少量より段階的に増量する。それらに伴い様々な葛藤や抵抗が生じるため、支持的なケアも必要である。家庭や学校の協力も不可欠となる。

食事を摂取しても急激に体重が増加しないことを診察でともに確認し繰り返し実感してもらうことも、認知の修正には大切である。また、栄養療法により飢餓症候群が改善されると、身体面のみならず認知面の改善がしばしば見られるため、その点も患者に伝える。

対人関係や家族関係に問題を抱えている場合も多く、これらの調整は社会適応を促進する上で必要である。

まずは外来治療で治療を開始する。低体重が著しい場合、重症の身体合併症や全身衰弱が強い場合は積極的な入院の適応である。このほか急な体重減少がみられた場合や重篤な精神症状がみられる場合に入院が必要になることもある。また、外来治療で改善が見られない場合は入院治療に移行する。さらに、低体重が著しくなくとも、入院治療を選択する場合もある。

神経性過食症

神経性過食症(bulimia nervosa)とは、食行動異常の一つで、食のコントロールが困難となって、頻繁な過食が見られる疾患である。米国精神医学会の診断基準の前版であるDSM-IV-TRまでの日本語版では、神経性大食症という訳語も用いられた。過食による体重増加を打ち消すための代償行動(自発性嘔吐や下剤乱用など)も見られる。心理面では神経性やせ症と同じく、体重や体型が自己評価を左右する。体重は過食と代償行動のバランスで決まり、正常体重のこともあるため、周囲には気付かれにくい。本人も症状を隠し、治療を受けないまま何年も経過することもある。体重は正常であっても過食嘔吐に伴う身体症状が見られることもあり、心身両面からの治療が必要な疾患である。

症状

過食は、英語ではbinge eating、 bingingと言われる、短時間に詰め込むような過食であり、「むちゃ食い」と訳されることもある。DSM-IV-TRまでは「週2回以上3カ月以上」という診断基準であったが、DSM-5では「週1回以上」となり、より軽症も含むようになった。むちゃ食いは、自分では止められない「失コントロール感」を伴う。

代償行動には、自発性嘔吐、下剤乱用のほか、利尿剤乱用や、過食時間以外の極端な節食などもある。嘔吐や下痢(下剤乱用時)によってカリウムが失われ、低K血症となる場合がある。不整脈を生じることもあるため、正常体重であっても、血液検査や心電図検査は必要である。嘔吐により唾液腺炎が起きたり、歯のエナメル質が溶けたりすることもある。

心理面では、神経性やせ症と同じく、自己評価が体重や体型に左右される。わずかな体重増加も許せないといった完全癖傾向が見られることも多い。

夜間の過食嘔吐による疲労、体重増による抑うつ感などから、登校・出勤できなくなることもある。過食経費がかさみ、生活に支障をきたすことも多い。

精神疾患併存症

神経性過食症には、抑うつ障害やパニック症、アルコールやその他の薬物の物質利用障害(乱用・依存)などさまざまな精神疾患が併存することがある。パーソナリティ障害群、特に境界性パーソナリティ障害の併存も多い。過食は軽減しても、飲酒量が増えるという場合もあるので、症状の全体像をとらえて治療計画を考えることが重要である。

経過と予後

神経性やせ症の経過中に過食が始まり、神経性過食症の診断基準に当てはまる状態となる場合もあるが、神経性やせ症の診断基準は満たさない軽いダイエットから始まる場合もある。一方、抑うつ状態の経過中に過食嘔吐が激しくなる場合もある。一過性の経過もあるが、慢性化する場合もある。代償行動が重症の場合は慢性化しやすく、身体症状も強いため、心身両面からの治療が欠かせない。当事者は、過食や嘔吐を病気だとは認識していない場合も多い。過食代償行動の悪循環が習慣化する前の受診の呼びかけが望まれる。

治療

治療は、過食嘔吐の軽減、心理面の改善、学校や職場での適応の援助などを目標とする。当事者は「過食嘔吐を止めたい」と希望する場合と「対人関係を何とかしてほしい」と希望する場合がある。症状軽減と心理的援助の両方が必要だが、症状が重症で生活が破綻しているような場合は、症状コントロールを行ってから心理面の援助を行う。英国の治療ガイドラインであるNICEガイドラインでは、治療の第一段階では、生活の規則化や症状モニターを当事者が行うガイデッドセルフへルプを勧めている。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)など抗うつ剤は症状軽減のエビデンスが示されている。しかし、長期の効果については不明である。薬物投与だけではなく、心理面、生活面の援助も同時に行う必要がある。心理療法では認知行動療法や対人関係療法の効果も示されている。

神経性過食症は、外来治療が基本だが、生活リズムを改善できない場合、重症の身体合併症がある場合、抑うつ感が強く、安全な場所での薬物調整や閉鎖病棟対応が必要な場合などは、入院治療を行う場合もある。

過食性障害

過食性障害とは(疾患概念)

過食性障害(Binge Eating Disorder: BED)は、制御できない過食(binge eating:むちゃ食い)のエピソードを繰り返すことによって特徴づけられます。しかし、過度の運動、自己誘発性嘔吐や下剤使用、絶食などの不適切な代償行動を伴わない点で神経性過食症(BN)とは区別されます。ここで過食というのは、単なる食べ過ぎではなく、短時間に大量の食べ物を食べることを指します。さらに、食べることを自分でコントロールできないという感覚を伴います。またBEDでは、上記代償行動を欠くため、体重は増加傾向にあり肥満が多くみられます。BEDは、アメリカ精神医学会の「精神疾患の分類と診断の手引き第5版 (DSM-5)」において、神経性やせ症(AN)、BNに次ぐ、第3の独立した摂食障害と認められました1)。表1にBEDを含む摂食障害の特徴を、図1にBEDと他の摂食障害および肥満との関連を示しています。

疫学

BEDの生涯有病率は、米国や世界保健機構(WHO)の報告では2.0%前後です2)。男性1.4–2.0%、女性2.6–3.5%と女性に多い傾向がみられますが3)、ANやBNと比べると、性差が少なくなっています。BEDの平均発症年齢は24歳前後で、思春期にもみられます。BEDは体格指数(BMI)と強く関連しており、WHO世界メンタルヘルス調査は、BED患者の30.7%が過体重(BMI≥25 kg/m2)で、36.2%が肥満(BMI≥30 kg/m2)であると報告しています2) 。BMI35kg/m2以上の高度肥満が主体である肥満外科希望者のBED併存率は17%でした4)

症状と診断基準

表4に、DSM-5のBEDの診断基準を示しました1,5)。むちゃ食いを同定する際の典型的基準は、摂取した量と摂取エピソードの時間枠とコントロール感の喪失(loss of control: LOC)です(基準A)。摂食障害の面接評価法であるEating Disorder Examination(EDE)では“客観的な”むちゃ食いと、“主観的な”むちゃ食いを区別しています。前者は、コントロール感の喪失を伴った、客観的な大量の食物摂取であり、後者は、コントロール感の喪失を伴った主観的な大量の食物摂取(客観的には大量ではない摂取)として定義されます。BNのむちゃ食いのあとには嘔吐のような代償行動が続きますが、BEDでは嘔吐を伴わないため、むちゃ食いの始まりと終わりは明瞭ではありません。

BEDでは、さらなる属性として、基準Bの5項目のうち3つ以上を満たす必要があります。基準Cの「過食に関して明らかな苦悩」の意味する内容は必ずしも明確ではありませんが、基準Bの(4)(5)を含むものと考えられます。基準Dについては、むちゃ食いの頻度の違いは重要な差でないというエビデンスがあることから、DSM-5ではBNと同じ「3ヶ月間に少なくとも週1回」と緩和されました。基準Eでは、規則的で不適切な代償行動を行なっていればBEDと診断されません。

短時間で大量の食物摂取とエピソード中のLOCの経験の両方がBEDのエピソードの診断に必要とされますが、最近の研究では、LOCをBEDのコア機能と見なす考えが出ています5)。基準Bの5つの指標自体が、BEDのエピソード中のLOCの有無の診断を支援することを目的としており、BED患者のむちゃ食いの高い予測因子となっているからです6)

現在、LOC摂食の構成要素は、肥満外科患者の集団で広く調査されています8)。手術後、患者は摂食能力を劇的に変化させる解剖学的および生理学的変化を経験します。その結果、術後の初期段階では、客観的に大量の食品を一度に食べることは困難となります9)。それにもかかわらず、かなりの数の患者は、少量の食物を介してLOCの感情を経験し続けます10)。これは減量成績の悪化11)および心理的苦痛の増加12)に関連します。手術後時間が経過するにつれて、術後のLOCが不良な体重減少の最も有力な予測因子であることが示されています13)。また、肥満外科患者では、LOC指標の数が多いほど関連する精神病理性が高くなっています14)。したがって、LOC摂食の現象をよりよく理解することは、LOCと術後の転帰不良との関連を把握し、問題のある摂食の早期発見によるリバウンドを防ぐことにつながります。

摂食障害としての精神病理

BNと比較することで、BEDの精神病理はより明らかとなります。BED患者は、BN患者と比べて、摂食パターンや体重についての不安、過体重についての自責感は低く、食行動に心を奪われることも少なく、自分自身に関して概ね肯定的な考えをもち、社会的にもより適応しており、対人関係も比較的良好と言われます15)。またBED患者はBN患者よりも、摂食抑制のレベルが低く16)、併存する精神症状は少ないようです。しかし、一方でBED治療を求める女性の肥満患者の摂食、体形、体重への関心のレベルはBN患者のそれに匹敵するとも言われます16)。またむちゃ食いのない肥満患者との比較では、過食をコントロールできず、肥満恐怖が強く、身体への不満足感も大きいという報告があります17)

併存する精神疾患

BED患者には広範な精神疾患が併存します。67%は生涯に少なくとも1つの他の精神障害を経験し、気分障害(47%)と不安障害(41%)の頻度が高くなっています18)。また37%が、現在少なくとも1つの精神障害を併存しており、不安障害(27%)および気分障害(17%)が最も一般的です19)。衝動制御障害も少なくない割合でみられます20)。例えば、薬物使用/乱用(22%)21)、ギャンブル依存(5.7–18.7%)22)、買い物依存(7.4–18.5%)などの多数の依存症が含まれます23)

治療

  • (1)心理療法

    主要な心理療法には、摂食障害焦点化認知行動療法(CBT-ED)、対人関係療法(IPT)、弁証法的行動療法(DBT)などがあります。National Institute of Clinical Excellence(NICE)のガイドライン24)では、BEDの治療の第1選択はガイド付き自助(セルフヘルプ)プログラム、第2選択は集団CBT-ED、第3選択が個人CBT-EDとされています。CBT-EDは直接的に摂食パターンの正常化を目的としており、患者がストレス状況に対処できるように行動および認知の変容を促し、BEDのエピソードを減らします。CBT-EDの有効性は高く、むちゃ食いの軽減が長期間持続するだけでなく、併存する精神病理も大幅に改善されます25)。対人関係の困難に焦点を当てたIPTも、CBT-EDと同様に長期的な有効性が示されています25)。また主に感情の調節、苦痛への耐性、対人効果に焦点を合わせるDBTも、BEDおよび関連する精神病理の減少に有望な結果が示されています26)。最近の研究ではむちゃ食い症状に対するセルフヘルプ形式の治療の有効性が示されており注目されています。BEDに対するセルフヘルプの治療の多くは、CBT-EDに基づいたものです27)

    一方、BED患者のほとんどは、むちゃ食いではなく減量の治療を求めているため、体重の問題についても適切に対処すべきです。これまでの知見は、BNと異なり、食事制限はむちゃ食いを悪化させず、患者が再び過食をコントロールするのを助けるということを示しています。したがって、食事制限や体重増減の潜在的に有害な影響を心配して肥満者の減量の努力を思いとどませるべきではありません。肥満のあるBED 患者に対する行動療法的減量治療は、減量のみならず、むちゃ食いと摂食障害に関連する精神病理も改善することが示されています28)

  • (2)薬物療法

    薬物療法はBEDの主要な治療法ではありせんが、主に抑うつ症状と体重管理に対処するために、補助的に用いられることがあります。抗うつ薬であるselective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)は、過食症の頻度を減らすのに効果的であることが示されていますが、減量に対して望ましい効果は認められていません29)

経過と予後

BEDの経過に関するエビデンスは未だはっきりしていませんが、概ねBEDの長期転帰は、他の摂食障害よりも良好であることが示されています。BEDが他の摂食障害に移行する傾向は小さく、BNへの移行が増加したとする報告はごくわずかです。また、BED患者の治療予後は、他の摂食障害よりも良好とされます。治療を受けた患者の50~80%が寛解に達しています。心理療法または心理療法と薬物療法の併用は、薬物治療のみの場合と比較して、より優れた治療効果をもたらしています30)

表1 代表的な摂食障害の特徴
BMIによる肥満・やせ症の分類

※ WHOはBMI≧25を過体重、BMI≧30を肥満としているが、本邦ではBMI≧25を肥満としている

表3 やせの程度による身体状況と活動制限の目安

神経性食欲不振症のプライマリケアのためのガイドライン(2007年)より

図1 摂食障害と肥満との関係
表4 過食性障害の診断基準(DSM-5)
  • A

    反復する過食のエピソード、過食のエピソードは以下の両方によって特徴づけられる。

    • 1)他とはっきり区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。
    • 2)そのエピソードの間は、食べることを制御できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)。
  • B

    過食のエピソードは、以下のうち3つ(またはそれ以上)のことと関連している。

    • 1)普通よりもずっと速く食べる。
    • 2)苦しいくらい満腹になるまで食べる。
    • 3)身体的に空腹を感じていないときに大量の食物を食べる。
    • 4)自分がどんなに多く食べているか恥ずかしく感じるため1人で食べる。
    • 5)後になって、自己嫌悪、抑うつ気分的、または強い罪悪感を感じる。
  • C

    過食に関して明らかな苦痛が存在する。

  • D

    その過食は、平均して3カ月間にわたって少なくとも週1回は生じている。

  • E

    その過食は、神経性過食症の場合のように反復する不適切な代償行動とは関係せず、神経性過食症または神経性やせ症の経過の期間のみに起こるのではない。

文献5)より引用
文献
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  • 14)Conceição FM, Lourdes, Peixotp A, et al: The utility of DSM-5 indicators of loss of control eating for the bariatric surgery population. Eur Eat Disord Rev 28: 423-432, 2020
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回避制限性食物摂取症

疾患概念と疫学

回避・制限性食物摂取症(Avoidant-restrictive food intake disorder:ARFID)は食物摂取の回避または制限によって、必要なエネルギーや適切な栄養の摂取を満たすことができず、著しい体重減少、栄養欠乏、経口栄養補助食品や経管栄養への依存、健康障害や心理社会的機能障害を来すものです。近年DSM-5 1)とICD-11 2)に追加されました。DSM-5の診断基準を表1に示します。神経性やせ症と異なる点は、体型や体重へのこだわりやボディーイメージの障害を伴わないことです。食物の回避・制限にいたる契機として、食欲低下または食物への無関心によるもの、食物の感覚的特性(味、食感、においなど)によるもの、食事に関連したイベント(窒息、嘔吐など)によるもの、が挙げられています。年齢に関係なく、小児・思春期・成人・高齢者を問わず診断されます。

15歳以上を含む一般人口におけるARFIDの有病率は、質問紙と面接を組み合わせたオーストラリアの研究では3か月有病率は0.3% 3)、台湾の小・中学生を対象にした面接調査では生涯有病率0.5%、6ヵ月有病率0.3% 4)と報告されています。ARFIDは、ANやBNと比較して、低い年齢層に多く、男性の割合が高く、平均して長い罹病期間であることが報告されています 5)

症状

中核の症状は、表1のAに示される症状です。ARFIDはさまざまな発症の契機、多様な病態を含むため、症状を一元的に説明することが難しくなります。症状を理解するためには、食行動の問題、身体症状、低栄養に伴う症状に分けて考えると理解しやすいでしょう。

食行動の問題としては、摂取量の減少、摂取可能な種類が少ないこと(偏食)、栄養剤や補助食品への依存、嚥下困難、経口摂取の拒否などがあります。一方で、食物の破棄、盗食、排出行為(嘔吐や下剤の利用)、過食などは一般的に認めません。

腹痛や嘔気、腹満感、倦怠感などの身体症状を認めることが多く、三次医療施設に来院した31名のARFID患者を後方視的に調べた研究では、全ての患者が2つ以上の身体症状を有し、50%以上が嘔気や早期膨満感あるいは腹痛を訴えていたと報告されています6)

低栄養に伴う症状は、低身長、低体重、低体温、低血糖、無月経、徐脈などのANと同様の症状です。さらに、ARFIDは長期の小食・偏食によって微量元素の欠乏を生じることがあり、貧血や皮膚症状にも注意が必要です。また、窒息や嘔吐などのイベントに関連したARFIDの場合は、急性期に水分摂取不能となり、脱水を来すケースもあります。

精神疾患併存症

2020年に報告されたARFIDのシステマティックレビューによれば、ARFIDは不安障害、注意欠陥多動性症、自閉スペクトラム症、強迫症などの精神疾患を高率に併存します5)。特に不安障害の併存は顕著で、部分入院プログラムを要した83名のARFID患者を後方視的に調べた研究では、73%に併存したと報告されています 7)。気分障害も併存することがありますが、ANやBNと比較すると少ないことが報告されています5)

経過と予後

経過と予後について示した研究は多くありません。ARFIDの入院加療については、ANと比較して長い入院期間となること8)、退院1年後の寛解率はANとほぼ同じであったこと8)、ANと同様の体重回復を示し退院後平均31か月も維持できたこと、が報告されています10)

後方視的にARFIDと診断した19名の長期経過(平均14.6年)を評価した研究では、5例(26.3%)に継続して摂食障害(すべてARFIDで変化なし)を認め、19名の平均BMIは21.9kg/m2、16例は仕事についており、9名(47.4%)にその他の精神疾患(不安障害、抑うつ障害、ASD、OCD)を認めました11)

治療

AED (Academy of Eating Disorder)のサイトに公開されているMinimum Standards of Care12)では、ARFIDの治療上重要なこととして以下の5つが示されています。

  • 1. 食事に関係する不安や外傷的な出来事(喉に詰まる、嘔吐など)に対して、戦略的に対処する
  • 2. 栄養バランスと低栄養を是正し、もし成長が止まっているならばそれを再開させる
  • 3. 強制的に食べさせる、脅すなどの方法でなく、食物への構造化された頻回の曝露を通じて、食べることのできる食品の範囲を増やす
  • 4. 食事の際に食欲がなくならないように間食は自由に摂らせず、規則的な食事習慣を身につけさせる
  • 5. 心理社会的な障害を最小限にする

再栄養に関しては、2.にあるように、AN患者の治療アプローチと同様に、低栄養、低体重、成長障害を認める場合は、できるだけ早く標準体重に近づく(回復)ように適切な栄養を行う必要があります13)

心理療法としては、CBTやFBTのようにARFIDに特異的な治療プログラムの開発と検証が進んでいます。しかし、ARFIDは食物の回避・制限にいたる契機や動機は様々であり、さらに栄養障害や社会生活への影響の程度も異なるため、介入の内容や頻度は必然的に変化が求められ、効果が検証された治療法は多くはありません。

薬物療法に関しては、オランザピン、ミルタザピン、ブスピロンなどの抗不安作用を有する薬剤に関して報告があり、治療薬の候補と考えられていますが、RCTなど質の高い研究の報告はまだありません。

表1 回避・制限性食物摂取症の診断基準(DSM-5)
  • A

    以下の1つ以上で示される、適切な栄養摂取やエネルギーの必要性を満たすことが持続的にできない摂食または食行動の障害(例:摂食や食物への明らかな関心の欠如、感覚的な特性に基づく食物回避、摂食による悪い結果への懸念)

    • 1. 著しい体重減少(または期待される体重増加がない、または子どもの成長が遅いこと)
    • 2. 著しい栄養不良
    • 3. 経腸栄養や栄養剤への依存
    • 4. 心理社会的機能の著しい障害
  • B

    その障害が、食物を得ることができないことや文化的に容認される慣習ではうまく説明されない。

  • C

    その摂食の障害は、神経性やせ症や神経性過食症の経過中にのみ起こるものではなく、体重や体型の感じ方の障害は確認されない。

  • D

    その摂食の障害は、併存する医学的状態によるものではなく、他の精神障害ではうまく説明されない。その摂食の障害が他の状態や障害の経過中に生じた場合では、通常その状態や障害によるものとする程度以上であり、臨床的関与の追加を正当化するほど重篤である。

▶該当すれば特定せよ

寛解状態:かつては回避・制限性食物摂取症の診断基準をすべて満たしていたが、現在は一定期間診断基準を満たしていない

文献1)より引用
文献
  • 1)American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5). 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association; 2013
  • 2)International Classification of diseases 11th Revision (ICD-11)
  • 3)Hay, P., Mitchison, D., Collado, A.E.L., Gonzalez-Chica, D.A., Stocks, N., Touyz, S., 2017. Burden and health-related quality of life of eating disorders, including avoidant/restrictive food intake disorder (ARFID), in the Australian population. J. Eat. Disord. 5, 1–10. https://doi.org/10.1186/s40337-017-0149-z.
  • 4)Chen, Y., Chen, W.J., Lin, K., Shen, L., Gau, S.S., 2019. Prevalence of DSM-5 mental disorders in a nationally representative sample of children in Taiwan: methodology and main findings. Epidemiol. Psychiatr. Sci. 30, 1–9. https://doi.org/10.1017/S2045796018000793.
  • 5)Bourne L, Bryant-Waugh R, Cook J, Mandy W., 2020. Avoidant/restrictive food intake disorder: A systematic scoping review of the current literature. Psychiatry Res. Jun;288:112961. doi: 10.1016/j.psychres.2020.112961.
  • 6)Cooney M, Lieberman M, Guimond T, et al. Clinical and psychological features of children and adolescents diagnosed with avoidant/restrictive food intake disorder in a pediatric tertiary care eating disorder program: a descriptive study. J Eat Disord 2018;6:7.
  • 7)Zickgraf, H.F., Lane-Loney, S., Essayli, J.H., Ornstein, R.M., 2019. Further support for diagnostically meaningful arfid symptom presentations in an adolescent medicine partial hospitalization program. Int. J. Eat. Disord. 1–8. https://doi.org/10.1002/eat.23016.
  • 8)Strandjord, S.E., Sieke, E.H., Richmond, M., Rome, E.S., 2015. Avoidant/restrictive food intake disorder: Illness and hospital course in patients hospitalized for nutritional insufficiency. J. Adolesc. Health 57, 673–678. https://doi.org/10.1016/j.jadohealth. 2015.08.003.
  • 9)Peebles, R., Lesser, A., Cheek Park, C., Heckert, K., Timko, A., Lantzouni, E., ... Weaver, L., 2017. Outcomes of an inpatient medical nutritional rehabilitation protocol in children and adolescents with eating disorders. J. Eat. Disord. 5, 1–14. https://doi.org/10.1186/s40337-017-0134-6.
  • 10)Bryson, A.E., Scipioni, A.M., Essayli, J.H., Mahoney, J.R., Ornstein, R.M., 2018. Outcomes of low-weight patients with avoidant/restrictive food intake disorder and anorexia nervosa at long-term follow-up after treatment in a partial hospitalization program for eating disorders. Int. J. Eat. Disord. 51, 470–474. https://doi.org/10.1002/eat. 22853.
  • 11)Lange, C.R.A., Fjertorp, H.E., Holmer, R., Wijk, E., Wallin, U., 2019. Long-term follow-up study of low-weight avoidant restrictive food intake disorder compared with childhood-onset anorexia nervosa: Psychiatric and occupational outcome in 56 patients. Int. J. Eat. Disord. 52, 435–438. https://doi.org/10.1002/eat.230338.
  • 12)https://www.aedweb.org/publications/minimum-standards-of-care?
  • 13)Golden NH, Katzman DK, Sawyer SM, et al. Update on the medical management of eating disorders in adolescents. J Adolesc Health 2015;56(4):370–5.

摂食障害の疫学

米国の一般人口集団の調査では、神経性やせ症の生涯有病率は、成人女性で0.9%、成人男性で0.3%、13~18歳の男女で0.3%と言われている。同様に、米国、欧州の一般人口調査では、神経性過食症の生涯有病率は、女性で0.9~1.5%、男性で0.1~0.5%であった。また、過食性障害の生涯有病率は、欧州の調査で、女性で1.9%、男性で0.3%、米国の調査では、成人女性で3.5%、成人男性で2.0%、13~18歳女性で2.3%、13~18歳男性で0.8%であった1)

一方、我が国では、推定患者数(1998年の1年間の受診者数)は、1998年の厚生省研究班の調査では、神経性やせ症12500人(10万対8.3~11.9)、神経性過食症6500人(10万対4.3~5.9)、非定型4200人で、10~29歳女性に限れば、神経性やせ症で10万対51.6~73.6、神経性過食症で10万対27.7~37.7であった。2015年から2016年に再び患者数調査が実施され現在解析中である。

また、1998年の新潟県における病院、診療所の調査2)では、時点有病率が、神経性やせ症で10万対4.79、神経性やせ症で10万対1.02であった。

京都の高校生から大学生の調査3)では、16~23歳女性の有病率は、表1に示す通りである。神経性やせ症、神経性過食症、特定不能の摂食障害、全摂食障害、すべての診断で、1982年、1992年、2002年と増加傾向を示していた。

欧米、我が国ともに、摂食障害は若年女性の有病率が高い。我が国では、若年女性で、神経性やせ症、神経性過食症を含めた全ての摂食障害の有病率が増加傾向にあり、特に、特性不能の摂食障害の増加には注意が必要であろう。

16~23歳女性における摂食障害の有病率 3)

引用文献

  • 1)Smink FRE, et al. Curr Psychiatry Rep 14: 406-414, 2012.
  • 2)Nakamura K, et al. Int J Eat Disord 28: 173-180, 2000.
  • 3)Nakai Y, et al. Psychiatry Res 219: 151-156, 2014.
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