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摂食障害の心理的支援 -カウンセリングと心理療法-

摂食障害の治療においては、カウンセリングや心理療法が併用されることがあります。カウンセリングと心理療法は一般的には同じような意味で使われることがありますが、厳密には少し違いがあります。カウンセリングでは、主に心理の専門家が相談者の方にお話を傾聴し寄り添いながら、相談者の方が主体的に自分の問題に向き合い、解決できるように支援していきます。カウンセリングでは、摂食障害についてももちろんですが、自分の性格、家族や人間関係の悩み、自分の将来のことなど何でも相談したいことを相談することができます。

一方心理療法は、より医学的な要素が強く、標的となる問題や症状の改善をめざして行われることが一般的です。近年では、科学的に心理療法の効果を検証し、実証的な証拠(エビデンス)に基づいて支援を行うことが重視されています。摂食障害においても、いくつかエビデンスが確かめられた治療が開発されてきていますので紹介します。

ただし、ここで紹介する心理療法は主に海外で開発されてきたもので、日本では必ずしも一般的ではないことがあります。また、症状や病型、発症してからの期間などを含め、その方の状態によって向き不向きもあります。カウンセリングでも心理療法でも、自分にあった方法やカウンセラー(心理療法家)を選ぶことが大切です。

摂食障害のタイプ別の心理療法

神経性やせ症(拒食症)に対する心理療法

神経性やせ症(拒食症)は、体重増加への強い恐怖が特徴です。体重や食事に対する過度のこだわりがあり、深刻な健康問題を引き起こすため、心理療法が重要となりますが、重症な低体重(BMI14未満)の場合、身体の医療的処置が優先されます。低体重の状態では認知機能が低下するため、心理療法の効果がでにくいこともわかっています。心理療法を効果的に行うためには、一定以上のBMIが必要です。治療の初期には病気に対する正しい知識を獲得し、回復へのモチベーションを高めるための心理教育が行われることが一般的です。また、後ほど紹介する、摂食障害にターゲットを当てた家族療法や認知行動療法などのプログラムが開発されています。摂食障害が長引く場合には、社会参加をサポートし、疾患と共存しながら回復を目指すこともあります。

神経性過食症に対する心理療法

神経性過食症については、むちゃ食いや過食嘔吐減らすために、認知行動療法(CBT-E)の効果が検証されています1)。認知行動療法に基づいたガイド付き自助プログラム「ガイデッドセルフヘルプ」の方法も効果が検証されています2)。この治療は、心理教育、症状のモニタリング、生活の規則化などからなり、神経性過食症の心理治療の基本でもあります。また、神経性過食症では、対人関係療法の効果も検証されています3)。神経性過食症については、過食や過食嘔吐などの症状だけに働きかけるのではなく、背景にあるボディイメージや自己評価、対人関係などの心の問題に取り組むことが大切です。

参考文献
  • 1)Fairburn CG, Cooper Z, Doll HA, O'Connor ME, Bohn K, Hawker DM, et al. Transdiagnostic cognitive-behavioral therapy for patients with eating disorders: a two-site trial with 60-week follow-up. Am J Psychiatry. 2009;166(3):311-9. doi: 10.1176/appi.ajp.2008.08040608.
  • 2)Schmidt U, Lee S, Beecham J, et al. A randomized controlled trial of family therapy and cognitive behavior therapy guided self-care for adolescents with bulimia nervosa and related disorders. Am J Psychiatry. 2007;164(4):591-598. doi:10.1176/AJP.2007.164.4.591
  • 3)Miniati M, Callari A, Maglio A, Calugi S. Interpersonal psychotherapy for eating disorders: current perspectives. Psychol Res Behav Manag. 2018;11:353-69. doi: 10.2147/PRBM.S120584.

過食性障害に対する心理療法

過食性障害については、認知行動療法、対人心理療法などの効果が検証されています。認知行動療法は直接的に、食事のパターンを正常化することを目的としており、ご本人がストレスに対処できるように認知の仕方や行動の仕方を見直しながら、むちゃ食いの頻度を減らします。その効果は長く続き、心理的要因も改善されます4)。食行動と対人イベントが影響し合うことに着目し、対人関係に焦点を当ててお話しする対人関係療法も同様に効果が長く続くことが分かっています。さらに感情の調節、苦痛への耐性、対人効果に焦点を当てた弁証法的行動療法も、過食性障害や関連した心理的要因を減らすのに有望とされています5)

参考文献
  • 4)Hilbert A, Bishop ME, Stein RI, et al: Long-term efficacy of psychological treatments for binge eating disorder. Br J Psychiatry 200: 232-237, 2012. doi: 10.1186/s12888-015-0445-6.
  • 5)Telch CF, Agras WS, Linehan MM. Dialectical behavior therapy for binge eating disorder. J Consult Clin Psychol 69:1061-1065,2001. doi: 10.1080/10640266.2019.1678982.

回避制限性食物摂取症に対する心理療法

回避制限性食物摂取症の特徴として、体型や体重へのこだわりを伴わないことが挙げられますが、発症のきっかけや、症状の程度は様々です。治療法としては、回避制限性食物摂取症のために専門的に開発された行動療法や認知行動療法、家族療法、複数の治療法を組み合わせたプログラムの検証が進んでいますが、やり方や評価法もばらつきが大きく、決まったかたちが確立されていません6)。回避制限性食物摂取症は様々なタイプがあり、個々の症状に合わせて治療法を組み合わせながら、専門的治療が行われているのが現状です。

参考文献
  • 6)Willmott E, Dickinson R, Hall C, Sadikovic K, et al. A scoping review of psychological interventions and outcomes for avoidant and restrictive food intake disorder (ARFID). Int J Eat Disord. 2024 Jan;57(1):27-61. doi: 10.1002/eat.24073.

治療効果が検証されている心理療法の紹介

ここでは、国際的に治療効果が検証され、諸外国のガイドラインに記載されている心理療法の代表的なものを紹介します。いずれも、海外で開発・検証されたものであり、日本においては、摂食障害に対する心理療法を提供している施設や医療制度(保険適用)は限られています。心理療法の普及や効果検証は、今後の課題です。

ガイディッドセルフヘルプ認知行動療法 -専門家の援助を得ながら自分で回復に取り組む-

ガイディッドセルフヘルプとは、専門家の援助を得ながら自分自身で回復に取り組むやり方です。狭い意味では、専門家の助けを得ながら摂食障害の認知行動療法に取り組む「ガイディッドセルフヘルプ認知行動療法」を指し、広い意味では、本人の生活改善の取り組みを援助する考え方全般を指します。

ガイディッドセルフヘルプ認知行動療法の概要

神経性過食症の治療においては、「認知行動療法(リンク挿入)」と呼ばれる治療が有効です。しかし、対面式の認知行動療法を受けるには、ある程度まとまった時間と費用がかかり、それを提供できる専門家が限られているのも現状です。より実用的で、簡便にアクセスできるやり方として、ガイディッドセルフヘルプという方法があります。これは、専門家の援助を受けながら、摂食障害の認知行動療法のワークブックなどを利用し、自分自身で治療に取り組んでいくやり方です。

治療は、認知行動療法に基づくセルフマニュアルやそれがまとめられた本1-2)やインターネットなどを使用して、専門家がガイドをしながら進みます。大枠の考え方は、認知行動療法で紹介したものと同様です。まず、摂食障害のメカニズムを理解し、治療の目標を立てます。そして、食事や栄養、嘔吐や下剤乱用の弊害など関する知識を獲得し、過食が起こりにくい規則正しい食生活に取り組みます。また、過食や排出行動を減らすために、その代わりとなる対処行動を計画します。そして、体型や体重への捕らわれといった、摂食障害を維持する考え方を変えることにもチャレンジしていきます。ガイド役の専門家は、計画を一緒にたて、うまくいったことをほめて励まし、うまくいかないことを一緒に考えながらプログラムを進めることを援助します。専門家のサポートの頻度や時間の例としては、対面で1回20分程度、開始当初は週1回、その後月に1~2回の対面セッションを4か月程度行うことがあります。しかし多様なガイド法があり、インターネットを用いたガイディッドセルフヘルプでは、メールなどでサポートを行うこともあります。

ガイドブックやインターネットで、自分だけでプログラムを継続することは困難が伴いますが、あなたを励まし、アドバイスをくれるガイド役の専門家がいることで、プログラムを継続することが可能になります。ガイド役の専門家は、必ずしも摂食障害の専門家ではなくても、ある程度理解のあるかかりつけの医師などでも可能です。

参考文献
  • 1)クリストファー・G・フェアバーン, 永田 利彦他訳. 過食は治るー過食症の成り立ちの理解と克服プログラム. 金剛出版, 2021.
  • 2)ウルリケ・シュミット, ジャネット・トレジャー, 友竹 正人他訳. 過食症サバイバルキット―ひと口ずつ、少しずつよくなろう. 金剛出版, 2007.
ガイディドセルフヘルプ認知行動療法の対象となる方と効果について

認知行動療法の効果が高いのは、特に成人の神経性過食症の方です。海外の治療ガイドラインにおいても、最初に取り組むべき治療法として挙げられています。そして、しばらくやってみて有効でなかったり、自分で行うのが困難だと分かったりしたときは、より専門的な心理療法などを行うことが推奨されています。短期的な効果と長期の維持効果が実証されており、40%-50%の方で完全に症状が消失したとの報告があります。また、思春期の神経性過食症の方に対しても効果が証明され、特に対費用効果としては優れた治療法であると考えられます3-5)

参考文献
  • 3)National Institute for Health and Care Excellence (NICE): Eating disorders: recognition and treatment.2017. nice.org.uk/guidance/ng69
  • 4)Schmidt U, Lee S, Beecham J, et al. A randomized controlled trial of family therapy and cognitive behavior therapy guided self-care for adolescents with bulimia nervosa and related disorders. Am J Psychiatry. 2007;164(4):591-598. doi:10.1176/AJP.2007.164.4.591.
  • 5)Sánchez-Ortiz VC, Munro C, Stahl D, et al. A randomized controlled trial of internet-based cognitive-behavioural therapy for bulimia nervosa or related disorders in a student population. Psychol Med. 2011;41(2):407-417. doi:10.1017/S0033291710000711.
広義のガイディッドセルフヘルプ

ここまで、主に認知行動療法に基づくガイディッドセルフヘルプを紹介してきました。しかし、摂食障害の治療には、もう少し広い意味での「ガイディッドセルフヘルプ」が重要です。すなわち、本人の力を治療に生かすこと、自分で回復に取り組むこと、そして周囲や専門家がそれを支援することです6)。例えば、生活のリズムの立て直しかたや、どのように体重を増やしていくかについて治療者と相談して計画を立て、日々の取り組みを自分でモニタリングし、次回に治療者に報告します。そして、それを治療者とともに検討し、アドバイスを受けながら次の取り組みを行っていきます。広義のガイディッドセルフヘルプは、そのような名前で呼ばれていなくても、摂食障害の治療として広く行われています。

参考文献
  • 6)西園マーハ文. 摂食障害のセルフヘルプ援助−患者の力を生かすアプローチ. 医学書院(電子版もあり)
ガイディドセルフヘルプの受け方

自分で症状に取り組もうと思ったら、上記のような病気の理解や症状記録をセルフでできる本などを探し、ガイド役になってくれる人を探してみましょう。セルフで取り組んでいて、わからないことが出てきたときに一緒に考えアドバイスをくれたり、症状記録の進捗状況を見守ってくれたりする方がガイド役となります。職種としては、精神科医、心療内科医、心理職(臨床心理士・公認心理師など)はガイドになってくれる可能性の高い方です。すでに他のことで支援を受けている専門家がいるなら、その方に尋ねてみるのも良い方法です。大学生なら学生相談室なども候補にしてみてください。このページとガイディッドセルフヘルプの本などを見せて、一緒に取り組んでもらえるかを相談するとよいでしょう。

これまでの研究で、同じガイドブックやウエブサイトを利用しても、一人だけで取り組むより専門家の支援を得た方が継続しやすく効果が高いことが一貫してわかっています。自分で回復に取り組む姿勢を大事にしながらも、周りの人や専門家からの支援を得るようにしてください。

摂食障害に対する認知行動療法(CBT-E)

強化型認知行動療法(Enhanced Cognitive Behavioral Therapy; CBT-E)はイギリスのC. G. フェアバーンらが開発した摂食障害の患者さん向けの構造化された心理療法です。CBT-Eは初めは神経性過食症の患者さんを対象としていましたが、神経性やせ症、過食性障害の患者さんも対象にできるよう改良されました。この心理療法については、海外では有効だというしっかりした研究成果がでています1-5)。日本国内では、CBT-Eが有効かどうかを確かめる試験が進行中です(『神経性過食症に対する認知行動療法の無作為比較試験』、研究代表者:安藤哲也。参加者の募集は締め切りました。CBT-E治療者を継続的に育成しているので、研究外での治療を受けることはできます。)日本では平成30年4月の診療報酬改定で、神経性過食症の患者さんに対するCBT-Eに健康保険が適用されることになりました。

参考文献
  • 1)Fairburn CG, Cooper Z, Doll HA, O'Connor ME, Bohn K, Hawker DM, et al. Transdiagnostic cognitive-behavioral therapy for patients with eating disorders: a two-site trial with 60-week follow-up. Am J Psychiatry. 2009;166(3):311-9. doi: 10.1176/appi.ajp.2008.08040608.
  • 2)Byrne S, Wade T, Hay P, Touyz S, Fairburn CG, Treasure J, et al. A randomised controlled trial of three psychological treatments for anorexia nervosa. Psychol Med. 2017;47(16):2823-33. doi: 10.1017/s0033291717001349.
  • 3) Dalle Grave R, Calugi S, Sartirana M, Fairburn CG. Transdiagnostic cognitive behaviour therapy for adolescents with an eating disorder who are not underweight. Behav Res Ther. 2015;73:79-82. Epub 20150804. doi: 10.1016/j.brat.2015.07.014.
  • 4)Poulsen S, Lunn S, Daniel SI, Folke S, Mathiesen BB, Katznelson H, et al. A randomized controlled trial of psychoanalytic psychotherapy or cognitive-behavioral therapy for bulimia nervosa. Am J Psychiatry. 2014;171(1):109-16. doi: 10.1176/appi.ajp.2013.12121511.
  • 5)Fairburn CG, Cooper Z, Doll HA, O'Connor ME, Palmer RL, Dalle Grave R. Enhanced cognitive behaviour therapy for adults with anorexia nervosa: a UK-Italy study. Behav Res Ther. 2013;51(1):R2-8. Epub 20121022. doi: 10.1016/j.brat.2012.09.010.
CBT-Eの概要

CBT-Eは合計21回行います(図1)。症状の評価と説明などを行う1回目は約90分となっていて、残る20回は1回50分です。

1回目では症状の評価を行い、ケースフォーミュレーション(図2)と呼ばれる病態概念図を作成します。ケースフォーミュレーションは神経性過食症を含む摂食障害の症状を持続させている精神的な問題と行動の問題との関係を、摂食障害の種類を問わない形でまとめたものです。体重と体形の過大評価が根底にあって、極端な食事制限を行い、耐え切れず過食して、さらに嘔吐や下剤の乱用に至る様子を図にしたものです。過食することで体重がさらに気になる、嘔吐や下剤乱用をするとまた食べたくなるというような悪循環が一目見てわかるようになっています。これを患者さんご本人の言葉で表現して作り、治療が進んだらこの図を見直します。

1回目ではまた、体重測定と食事の記録を始めます。記録はCBT-Eを行う間ずっと続け、治療が終了する時点で記録も終了します。

初回と、続くステージ1の7回のセッションは、治療をスムーズに進めるため、1週間に2回のペースで行います。ステージ1では、記録から課題点を見つけ出して治療者と共に改善を図り、規則正しい食事の習慣作りを行うことが中心になります。毎日3食に加えて2回または3回の間食を行い、できるだけ嘔吐や下剤乱用などを減らし、起きている間に4時間以上の空腹な時間は作らないようにします。規則正しい食事をきちんと行うと、それだけで過食したいという気持ちが大幅に減少します。体重測定を毎週行い、1回の結果だけではなく、より長い期間の変化で判断すると言った合理的な考え方を身に着けていきます。また開発者のフェアバーンの著書である『過食は治る』6)を読むなどして摂食障害に関する正しい知識を学びます。

ステージ2は1回または2回のセッションを行い、ステージ1が順調に進んだかを確認します。気分の変動が激しすぎたり、自尊心が低すぎたり、ゆううつな気持ちが強いことなどが問題になって治療が進まない場合、治療者と原因をよく考えて対策を立てます。大きな問題がなければ、ステージ3に移行します。ステージ2と3は週1回のペースでセッションが進んで行きます。

第10回から18回までのセッションがステージ3となります。ステージ3では過食症の精神的な問題の中心となっている自分の体のとらえ方、高カロリーな食べものを避けようとすること、ストレスの問題などに対処していきます。これら3つの要素は、問題が大きいものから順に取り組んでいきます。場合によっては同時に並行して取り組むこともあります。

体形を確認する行為をどれだけの頻度でどのように行っているのか確認し、ひどく不自然なことはやめ、行動そのものは正常であったとしても何度も行っているようなことは減らして適正な範囲に収まるようにします。逆に体形を確認することを極端に恐れて避けている場合には、自分の体を見たり触れたりすることに少しずつ慣らしていきます。

過食をする患者さんはしばしば食べてはいけない食品を決めていますが、過食が始まると食べないようにしていたものを大量に食べ、吐き出したりします。食べないようにしている食品のリストを作り、次回までに挑戦してくる食品を決め、吐かないように食べることに挑戦します。

またストレスに立ち向かうため、何か問題となるようなことが起きそうな場合、あらかじめ問題を解決する方法を考え出し、本当に問題が起こったらすぐに対応できるように準備して起きます。

ステージ4では記録や体重測定など治療のため行ってきた特別な手続きを終了していき、再発予防のプランを個別に作って終了します。ステージ4は2週間に1回、合計3回行います。

図1 CBT-Eの流れ
図2 ケースフォーミュレーション
CBT-Eの対象となる方

CBT-Eで保険が適用となるのは、神経性過食症の診断基準を満たす患者さんです。やせ願望、肥満恐怖があって、極端な食事制限と過食、嘔吐や下剤の乱用、過活動が認められますが、体重はあくまで正常範囲内です。うつ病、パーソナリティー障害などの合併症があっても実施できることになっていますが、症状が重い場合、そちらの治療を先に行った方がよい場合もあります。死にたい気持ちが強いなど精神的に不安定な場合にはCBT-Eを行うのは困難です。男女どちらでも実施できます。年齢は問いませんが、気持ちの安定しない子供さんや思春期の患者さんで行うのは難しいこともあります。

CBT-Eを受けられる施設

現在CBT-Eを受けることのできる施設としては、無作為比較試験に参加している東北大学病院心療内科、国立国際医療センター国府台病院心療内科、東京大学医学部附属病院心療内科、九州大学病院心療内科では研究目的での参加者募集はすでに終了していますが、CBT-E治療者を継続的に育成しているので、研究外で治療を受けることはできます。ステージ1で週2回の治療を行うため、遠方から通ってCBT-Eを受けるのは難しいでしょう。今のところこれらの施設でオンラインCBT-Eは行っていません。その他ではCBT-E研修会で治療者の育成を試みておりますが、実際に治療を行なっている施設がどれだけあるかはわかっていません。実施状況の把握が今後の課題となっています。お近くの精神科、心療内科の病院で実施している可能性はありますので、それぞれの医療機関にお問い合わせください。

まとめ

神経性過食症の認知行動療法、CBT-Eにはしっかりした枠組みがあり、有効性が示されている心理療法です。これまでは回復が難しいと考えられていた、長期にわたって苦しんできた重症の患者さんも、この治療を受けて回復しています。今後治療を受けられる機会が増えていくことが望まれます。

参考文献
  • 6)クリストファー G.フェアバーン. 過食は治る 過食症の成り立ちの理解と克服プログラム. 東京: 金剛出版; 2021.

摂食障害の家族療法(FBT)

かつて、摂食障害の治療においては、家族の関与は望ましくないとされていました。しかしながら、現在では、どのようなタイプの摂食障害についても、家族は患者の回復のための最も重要な資源として位置付けられています。特に、神経性やせ症については、治療の過程全体を通して家族の参加を求める家族療法が1970~80年台から欧米で台頭し、その効果が検討されてきました。

FBTの概要

FBTはFamily-Based Treatmentの略で、その名前が示すように、家族が治療の土台となる、摂食障害の治療アプローチです。英国のモーズレイ病院の児童思春期摂食障害外来クリニックで行われていた治療方法が元になっています。モーズレイ方式の治療はFamily Therapy for Anorexia Nervosa; FT-ANとも呼ばれます。FBTとFT-ANは同じ理論原則に基づいたもので、現時点では、児童思春期の神経性やせ症に対して最も有効性が確認された治療法として国際的に知られており、海外の多くの治療ガイドラインにおいて、年齢の若い(およそ20歳未満)神経性やせ症患者への治療の第一選択肢であるべきだと明記されています。治療は原則として外来で行われ、医学的に安定した1)患者を対象とすることが特徴です。

注釈
  • 1)ここでいう「医学的に安定した」とは、患者の体重が健康体重のおよそ70%以上で、外来治療が可能な状態であることを指します。
FBTの対象となる方

FBTは、家族とFBT治療者、そして医療の専門家が治療チームを組み、それぞれの役割を担いながら、患者が家庭で回復していけることを目指す治療です。治療チームの最も重要なキーパーソンは両親2)で、病気の影響で正常な思考力・判断力が失われている患者に代わり、速やかな回復のための食事摂取を主導していく役割を担います。その取り組みを支援するのがFBT治療者で、FBT治療者は摂食障害やFBTについての専門的な知識をもち、家族が最も効果的に患者にかかわれるようサポートします。そして、治療を医学的な側面から支える医療者(小児科医、精神科医、心療内科医など)は、治療を安全に進められるよう、患者の心身の状態を常時モニタリングし、治療の経過の中で起こり得る身体的・精神的リスクを評価します。その上で、必要と判断される場合には、心身の安定を取り戻すための短期入院治療や薬物療法などを行います。通常は、FBT治療者の役割は公認心理師や臨床心理士などの心理の専門家が担いますが、そのような役割分担が難しい場合には、医療者がFBT治療者を兼任することもあります。このほかに、きょうだいも、その年齢にふさわしいやり方で患者の回復を応援する関わりをします。

注釈
  • 2)ここでいう「両親」とは、患者の日常生活において保護者の役割を担う親(またはそれに代わる養育者)のことを指します。
FBT治療の内容と流れ

FBTは手順がマニュアル化されており、スタンダードな型では、およそ12ヶ月間かけて三段階の治療に取り組みます。すべての面接に患者と家族3)が参加します。第一段階では、患者の速やかな体重回復4)に焦点が置かれます。家族全員に摂食障害がどのような病気でそれがどのような影響を患者に与えるかについても学んでもらいます。

第一段階中は、両親が患者のすべての食事と間食を管理します。すなわち、メニュー決め、準備と調理、配膳を両親が主導で行い、食事に付き添い完食を見届けます。それだけでなく、両親は、患者の食べることや太ることへの恐怖に起因する摂食障害行動(抵抗やパニック、過活動、食事にまつわる様々なルールやルーティンなど)を減らすことにも取り組みます。第一段階の間、FBT治療者は、およそ週一回の頻度で患者と家族と合同面接を行い、体重回復2)と摂食障害行動の改善のために両親が患者に効果的にはたらきかけられるようサポートします。

第二段階への移行は、患者が健康体重のおよそ90%を達成し5)、食べることへの抵抗が減っていることが、患者の言動から確認できるようになったことを目途に行います。第二段階では、食べることの決定権や主導権を、回復の度合いに応じて、少しずつ患者に戻していきます。第二段階は、およそ2週間に一回のFBT治療者との家族面接を通じて、残りの体重回復および摂食障害行動の克服に患者が主体的に取り組めていること、両親がそれを後押しできていることを確認しながら進めていきます。

第三段階では、健康体重への到達とその維持、そして不安や恐怖を感じずに食事が取れるようになったことを確認し、FBT治療の終結に向けて準備を進めていきます。第三段階では、FBT治療者は、月に一回程度の面接の中で、再発防止の計画を立てながら、患者や家族が本来の生活にスムーズに戻っていけるようサポートします。

注釈
  • 3)スタンダードなFBTでは、(両親ときょうだい等)家族全員の参加が原則ですが、実際の治療では個々の家族の事情を考慮して誰が参加するかを決めます。
  • 4)ここでいう「体重」は、摂食障害になる前の体重ではなく、患者の性別や年齢、身長、および発育歴を考慮した上で推計される、本来あるべき健康体重のことを指しています。
  • 5)女性の場合は、月経の再開(または初潮の発来)が目安となります。
FBTを始める際に注意すべきこと
  • 実際の治療は、患者の病気の重さや家族の事情に合わせて行っていくため、治療期間は個々のケースによって異なります。
  • 体重回復を安全に行うためは、FBT治療を始める前に専門医による患者の身体状況の評価を受けること、そしてFBT治療中も継続して身体状況のモニタリングを受けることが必須です。FBT治療を受ける際には、医師の関与が継続的にあることを確認してください。
  • FBTの体重回復は、無理やり食べさせる行為では決してなく、家族のあたたかくも毅然とした、そして粘り強い見守りに支えられて実現するものです。患者の身体を押さえつけて無理やり食べ物を口に入れたり、暴力や脅しを使って食べさせようとしたりすることは虐待行為にあたります。
FBTを受けられる施設

海外では、FBTは児童思春期の神経性やせ症に対するスタンダードな治療法ですが、日本でFBTを実践する治療者は未だ少ないのが現状です。現在、日本でもこの治療がスタンダードになるよう、FBT治療者育成のための研修体制の整備や、日本の医療現場に合ったFBT診療マニュアルの開発などが進んでいます。ただし、本記事執筆時点(2025年1月)では、FBT実施施設に関する情報はあいにく未整備となっていますので、FBT治療者をお探しのご家族は、まずは受診予定の(あるいは受診中の)専門治療機関にFBTのトレーニングを受けた治療者がいないか問い合わせてみてください。

FBTについてもっと詳しく知るには

FBTについてより詳しく知りたい場合は、家族向けに書かれた以下の書籍をご参照ください。

『家族の力で拒食を乗り越える:神経性やせ症のための家族療法ガイド』
マリア・ガンシー 著
井口敏之/岡田あゆみ/荻原かおり 監修・監訳 星和書店

摂食障害に対する対人関係療法

対人関係療法の概要

対人関係療法はこころの病気を治療するための心理療法の一つです。いろいろなこころの病気が治療されていて、摂食障害に対しても効果があることがわかっています。対人関係療法は、1970年ごろ、うつ病の患者さんのために医師やソーシャルワーカーの人たちによって作られました。作った人たちは、一から新しい治療法を作ろうとしたのではなく、当時、治療で行われていた心理療法の良い部分や、研究で明らかになったことなどを治療法としてまとめようと考えました。そのため、対人関係療法は、特別なことや変わったことをする治療法ではなく、とても常識的な内容になっています。

対人関係療法を作った人たちは、まず、うつ病はどのようにして発症するのかという当時の研究を調べました。すると、「近い関係の家族を亡くして悲しみが続いている」「近い関係の家族との間に問題を抱えていて、関係が良くない」「進学・就職・引っ越しなどの生活の変化や、思春期・病気などによる心身の変化があって、周りの人との関係が変わった」「親しい関係の人や支えになってくれる人がいない」ということがうつ病の発症に関係していることがわかりました。どれも対人関係が関係しているため、対人関係に効果的に働きかけるように治療法が作られ、対人関係療法と名付けられたのです。

初めはうつ病の治療に使われていましたが、その後、治療の内容をほとんど変えずに摂食障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの他のこころの病気にも効果があることがわかり、使われるようになりました。

対人関係療法の効果

摂食障害に対する対人関係療法の効果を調べた研究がいくつかあり、それらの全体をまとめた論文1)では以下の報告がされています。まず、神経性やせ症に対して、対人関係療法は認知行動療法と比べて、効果に明らかな差はありませんでした。神経性過食症については、対人関係療法は認知行動療法に比べて、治療直後の効果は低いものの、その後、緩やかに改善が続いて長期的には認知行動療法と同じ程度の効果を示しました。また、過食性障害に対しては、対人関係療法は長期的に効果が維持し、さらに改善していくことがわかりました。この理由としては、対人関係療法では摂食障害の症状そのものに取り組むのではないため効果が出るのが緩やかであるけれども、患者さんが巻き込まれている対人関係に治療者と一緒に取り組むため、治療後も対人関係で抱えている問題が良くなることで効果が増していくからと考えられます。

また、対人関係療法はうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対しても効果があることがわかってきました2-4)。つまり、対人関係療法は診断の種類を問わず、様々なこころの病気を治療できるのが特徴です。摂食障害のほかにうつ病やPTSDなどの病気を持っている場合、対人関係療法を受けることでそれらの症状も良くなることが期待できます。

参考文献
  • 1) Miniati M, Callari A, Maglio A, Calugi S. Interpersonal psychotherapy for eating disorders: current perspectives. Psychol Res Behav Manag. 2018;11:353-69. doi: 10.2147/PRBM.S120584.
  • 2)Barth J, Munder T, Gerger H, Nuesch E, Trelle S, Znoj H, et al. Comparative efficacy of seven psychotherapeutic interventions for patients with depression: a network meta-analysis. PLoS Med. 2013;10(5):e1001454. doi: 10.1371/journal.pmed.1001454.
  • 3) Zhou X, Hetrick SE, Cuijpers P, Qin B, Barth J, Whittington CJ, et al. Comparative efficacy and acceptability of psychotherapies for depression in children and adolescents: A systematic review and network meta-analysis. World psychiatry : official journal of the World Psychiatric Association (WPA). 2015;14(2):207-22. doi: 10.1002/wps.20217.
  • 4) Markowitz JC, Petkova E, Neria Y, Van Meter PE, Zhao Y, Hembree E, et al. Is Exposure Necessary? A Randomized Clinical Trial of Interpersonal Psychotherapy for PTSD. AJ Psychiatry. 2015;172(5):430-40. doi: 10.1176/appi.ajp.2014.14070908.
対人関係療法の実際

対人関係療法は「こころの病気が発症し、それが続いていく背景には、遺伝的な要因、幼少期に育った環境、家族を含めた対人関係、体験した出来事、体の病気といった様々なことが影響している」という常識的な立場をとっています。ときどき勘違いされやすいのですが、対人関係療法では「こころの病気の原因は対人関係にある」と決めつけているわけではありません。「こころの病気には様々なことが関係しているが、対人関係がきっかけになって発症し、続いていく」と考えます。例えば、「ダイエットして体重が落ちると、周囲から『痩せたね!』と認めてもらえたり褒めてもらえたりした」というきっかけで摂食障害が発症することはよくあります。また、「周りの人に自分を認めてもらわないといけない」と感じて自分の気持ちを抑えこむことになり、もやもやした気持ちを抱えてしまって、それをなんとかしようとして過食嘔吐が続いてしまうこともあります。

そこで、対人関係療法では「こころの病気の症状と対人関係とがお互いに影響を与える」という考え方に基づいて、患者さんを取り巻く現在の対人関係に取り組むことによって症状が良くなることを目指します。通常、週1回50~60分で、合計12~16回の期間限定の治療として行われます。初期(3~4回)では、患者さんを取り巻く対人関係や生活上の出来事と病気や症状の経過を詳しく聞き取り、患者さんと治療者で共有します。そして、どのような対人関係の問題が病気や症状に関連しているかについて、患者さんと治療者が話し合い、共有し、治療方針を一緒に決めます。そして、中期(9~11回)では、初期で話し合って決めた治療方針にもとづいて、対人関係の問題に患者さんと治療者が協力して取り組み、対人関係面で患者さんが楽になっていくことを目指します。最後の終結期(2~3回)では、治療全体を振り返り、治療後に取り組むことや再発予防を話し合います。

対人関係療法はとても暖かい治療関係で、患者さんと治療者が協力して対人関係に焦点を当てて取り組む治療法です。摂食障害などの症状をどう改善させるか、といったことは治療では話し合われず、患者さんを取り巻く対人関係について話し合い、患者さんが楽になっていくことを目指すため、治療に無理が少なく、治療を途中で続けられなくなることが少ないとわかっています5)。

参考文献
  • 5) Linardon J, Fitzsimmons-Craft EE, Brennan L, Barillaro M, Wilfley DE. Dropout from interpersonal psychotherapy for mental health disorders: A systematic review and meta-analysis. Psychother Res. 2019;29(7):870-81. doi: 10.1080/10503307.2018.1497215.
対人関係療法について知るために

このように、対人関係療法は患者さんにとって無理が少なく、治療を続けやすく、治療者が味方としてサポートしながら一緒に対人関係に取り組んでいく治療法です。効果はゆっくりと出てきますが、長い目でみると、患者さんを取り巻く対人関係の問題が解消されていって、効果が伸びていく治療法です。このような特徴がありますが、対人関係療法は世界でも普及が遅れていて、必要な患者さんに十分に届けられていません。日本でも、認知行動療法などの他の心理療法に比べて普及が遅れていて、健康保険の適用となっておらず、また、きちんとしたトレーニングを受けた治療者が対人関係療法を提供している施設はまだ少ないのが現状です。国際対人関係療法学会(the International Society of Interpersonal Psychotherapy)の正式な日本支部である対人関係療法研究会(IPT-JAPAN:http://ipt-japan.org/ )が普及活動を行っていて、今後、日本でも対人関係療法を受けられる施設が増えていくことが期待されています。また、対人関係療法について患者さん・ご家族向けの本が出版されていて、まずそれらを読むことでもとても助けになるでしょう6-8)

参考文献
  • 6)水島広子. 拒食症・過食症を対人関係療法で治す. 東京: 創元社; 2007.
  • 7)水島広子. 焦らなくてもいい!拒食症・過食症の正しい治し方と知識: 日東書院本社; 2009.
  • 8)水島広子. 摂食障害の不安に向き合う:対人関係療法によるアプローチ: 創元社; 2015.
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