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摂食障害は食行動を中心にいろいろな問題があらわれる病気です。一般に「摂食障害」というと主に神経性やせ症・神経性過食症のことを指しますが、DSM-5(米国の診断基準)では新たに過食性障害・回避制限性食物摂取症も摂食障害の診断に加わりました。ここではこの4つの疾患について説明します。

神経性やせ症

神経性やせ症では体重や体型の感じ方が障害されます。患者さんは明らかにやせていても、それを異常と感じられません。やせるために食事量を制限しますが、その反動として過食する方もいます。その場合、嘔吐や下剤の大量使用などにより体重が増えるのを防ぎます。神経性無食欲症・拒食症などと呼ばれてきましたが、必ずしも食欲が無いわけではなく、また過食が見られることもあることから、神経性やせ症という新しい病名が提唱されています。心身両面のケアが必要ですが、どちらも低栄養がすすむほど治療が難しくなるため、早期の対応が求められます。

症状

身体症状としては、正常下限を下回るやせがあり、成人ではBMIが15kg/m2未満になると最重度と診断されます。やせているのに活発に活動することが多くみられますが、やせに伴い次第に筋力低下や疲れやすさを感じるようになります。低血圧、心拍数低下、低体温、無月経、便秘、下肢のむくみ、背中の濃い産毛、皮膚の乾燥、てのひらや足の裏が黄色くなるといった変化がみられます。過食や嘔吐がある場合には、唾液腺が腫れたり、手に吐きだこがみられたりもします。血液検査では脱水、貧血や白血球減少、肝機能異常、低タンパク血症、高コレステロール血症などがみられます。嘔吐や下剤を大量に使うことなどにより電解質異常をきたします。また、骨粗しょう症や腎機能障害もみられます。低体重が長期間続くと脳の萎縮もみられるようになります。

精神面での変化としては、やせの影響でうつ気分や不安、こだわりが強くなってきます。やせていることで満足感は得られますが、根底には自尊心の低下が存在しています。 本人は自分がやせているとは思っていないことから、心配する周囲の人たちとの関係が悪化することがあります。体力低下に伴い、学業や仕事の能率の低下もみられるようになり、日常生活にも支障がでます。

低栄養による身体・心理的症状

経過と予後

ダイエットを契機に発症することが多い病気ですが、体重をうまく減らせると、一時的に達成感や充実感が得られ、さらに極端な食事制限や偏った食事を追及する、という悪循環に陥ります。その結果、極度の低栄養状態となります。また、無理なダイエットの反動として過食に走り、拒食と過食の繰り返しで病気が長期化する方も少なくありません。神経性過食症の状態に変わることもあります。低体重や低栄養による体の影響は、深刻なものが多く、最悪の場合、死にいたることもあり、適切な治療が必要です。

治療

治療は、食行動の改善、それに伴う身体面の改善(体重増加や月経の回復)、こころや偏った考え方の改善、学校や職場で過ごしやすくなることなどを目標とします。認知行動療法、家族療法などの心理療法が有効とされています。薬物療法としては一部の向精神薬が偏った考えなどを柔らかくするかもしれませんが、薬物療法だけでは問題は解決しないことがほとんどです。

ご本人はあまり受診をしたくないという方も多いと思いますが、ご家族の協力も得て、勇気を出して受診してみましょう。低栄養・低体重のこころや体に対する影響を正しく知ることが治療の第一歩となります。その上で、三食規則正しく食べ、健康的な食事に心と体を慣らしていきます。食事量については主治医のアドバイスを受けることをお勧めします。また、「食べたいけれども怖い」「体重を増やさないといけないけれども増やすのが怖い」といった強い戸惑いも治療の上で生じます。その場合は、主治医に相談しましょう。毎回休まずに受診をして、三食食べても体重は急激に増えないことを実感することは、食事や体重についての偏った考えを少しずつ変えていくために重要です。また、栄養が改善するだけでも考えが柔らかくなる場合も多く見られます。

家庭・学校・職場での人との関わりが病気の進行と大きく関わっていることも少なくありません。ご家族と共に受診されることをお勧めいたします。

一般にまずは外来治療で治療を行いますが、低体重が著しい場合や立ち上がったり階段を登れなかったりといった体が極端に弱っている場合、このほか体重が急に減った場合や、電解質異常などの体の異常・精神症状が強い場合などに、入院が必要になることがあります。また、外来治療で改善が見られない場合は、ご本人・ご家族と相談の上、入院治療が行われます。低体重が著しくなくても、入院治療の効果が期待され、すすめられる場合もありますので、主治医とよく相談しましょう。

神経性過食症

神経性過食症とは、食のコントロールができなくなり、頻繁に過食をしてしまう病気です。神経性大食症と呼ばれることもあります。過食に加え、嘔吐など、体重を増やさないための行動が見られますが、どちらも人前では出ない症状のため、周囲は気付かないこともあります。自分でも病気とは思わず、援助を求めないことが少なくありません。治療を受けない状態が続くと、身体症状が進んだり、うつや不安が強まったりすることもあります。神経性過食症と、健康な人にも時には見られる「やけ食い」などの行動とはっきり区別できない場合もあり、病気かどうかを判断するのは難しい面もありますが、病気としての神経性過食症の特徴を良く知り、あてはまる部分が多い場合は、医療機関に相談しましょう。

症状

神経性過食症の過食は、大量の食物を、詰め込むように一気に食べるのが特徴です。英語のbinge eatingを訳して「むちゃ食い」と言うこともあります。意志の力で止められるはずだと思われがちですが、自分では止められず、コントロールできない感覚が強い場合がほとんどです。米国精神医学会の新しい診断基準では、週1回でも過食があれば治療が必要とされています。

また、吐く、下剤を使うなど、体重を増やさないための行動が見られます。過食時間以外は絶食という場合もあります。嘔吐が続くと唾液腺が腫れたり、歯の表面が胃酸で溶けたりすることもあります。嘔吐や下痢(下剤常用の場合)でカリウムが失われ、不整脈が出ることもあります。体重は正常でも、血液検査や心電図検査が必要だと言えます。

心理的には、体重次第で自己評価が変わったり、気分の浮き沈みがあったりします。100gでも体重が増えると、生きている価値が無いと思ったりしてしまいます。また、完全癖も強く、少しでも体重が増えると失敗だと思う傾向があります。過食の後は体重増加や疲労感から学校や職場に行けなくなったり、過食代に多額のお金がかかったりするなど、生活面にも影響が出ることが少なくありません。

経過と予後

神経性やせ症の経過中に始まる場合もありますし、軽いダイエットの後、発症する場合もあります。ストレスに対するやけ食いが習慣化し、それに嘔吐が加わる場合もあります。過食と嘔吐や下剤乱用とのバランスで、体重は低めになることもありますし正常体重のこともあります。嘔吐が激しいと、過食嘔吐の悪循環が続き、長期化しやすいと言われています。うつ病やアルコール乱用が重なる場合もあり、このような場合は、神経性過食症以外の症状にも目を向けて治療する必要があります。

治療

治療には、過食嘔吐を減らし、うつや自信の無さを改善し、職場での生活を助けるなどいくつかの軸があります。ご本人は「過食を止めたい」と希望することが多いですが、過食以外がほとんど絶食の状態で過食を止めるのは難しいことです。最初は「過食ゼロ」よりも、食事の規則性やコントロール感を取り戻すことを目指します。このために、毎日の生活パターンを把握し、生活のリズムを決めます。その上で、薬物療法、心理療法(認知行動療法など)を行います。

薬物としては、SSRIなどの抗うつ剤が過食嘔吐を減らす効果があると言われています。ただし、長期の効果については不明で、薬物だけでの完治は困難だと考えられています。

認知行動療法も効果があります。これは、症状やその背景の気持ちを本人が記録し、それを検討しながら、症状コントロールについて考えていくものです。

外来での治療が基本ですが、生活リズムを改善できない場合、身体症状が強い時、うつが強く、薬物調整をしたり閉鎖病棟で治療をする方が良い場合は入院治療を行う場合もあります。

※選択的セロトニン再取り込み阻害剤と言われる抗うつ剤で、従来の抗うつ剤より副作用が少ないと言われています。

過食性障害

過食性障害とは(疾患概念)

過食性障害は、自分ではコントロールできない過食(むちゃ食い)を繰り返すことが特徴です。しかし、過食によって体重が増加するのを防ぐための過度な運動や、嘔吐、下剤使用などの不適切な代償行動を伴わない点で神経性過食症とは区別されます。ここでいう過食とは単に食べ過ぎたということでなく、短時間に大量の食べ物を食べることを指します。さらに、食べることを自分でコントロールできないという感覚を伴います。過食性障害では、不適切な代償行動を行わないため、体重が増える傾向にあり肥満が多くみられます。表1では過食性障害を含む摂食障害の特徴を示し、図1では過食性障害と他の摂食障害や肥満との関連を示しています。

疫学

過食性障害の生涯有病率(生涯のうちにかかる割合)は、米国や世界保健機構(WHO)の報告では2.0%前後です1)。男性1.4-2.0%、女性2.6-3.5%と女性に多い傾向がみられますが2)、神経性やせ症や神経性過食症と比べると、性差が少なくなっています。過食性障害の平均発症年齢は24歳前後で、思春期にもみられます。過食性障害では体格指数(BMI)が高い傾向があり、WHO世界メンタルヘルス調査によると、過食性障害患者の30.7%が過体重(BMI≥25kg/m2)で、36.2%が肥満(BMI≥30kg/m2)と報告されています1)。BMI 35kg/m2以上の高度肥満が主体である肥満外科希望者の過食性障害併存率は17%でした3)

症状と診断基準

表2に、米国精神医学会の診断基準(DSM-5)を示します4,5)。むちゃ食いかどうかを判断する基準は、ある時間内に大量の食べ物を食べること、コントロールできない感覚を伴うことです(基準A)。さらに基準Bの5項目のうち3つ以上を満たす必要があります(基準B)。過食に関して明らかな苦悩がなければなりません(基準C)。むちゃ食いの頻度は、3ヶ月間に少なくとも週1回です(基準D)。もし、不適切な代償行動を規則的に行っているようなら過食性障害とは診断されません。

摂食障害としての精神病理

過食性障害患者は、神経性過食症患者に比べて、全般に食事や体重についての不安やとらわれは少ない傾向にあり6)、食事抑制のレベルは低い7)と言われます。しかし、むちゃ食いのない肥満患者との比較では、過食をコントロールできず、食事や体重にとらわれが強く、身体への不満足感も大きいという報告があります8)

併存する精神疾患

過食性障害患者が、他の精神疾患にもかかっていることは少なくありません。過食性障害患者67%は生涯に少なくとも1つの他の精神障害を経験し、47%が気分障害と41%が不安障害を経験したと報告されています9,10)。また。過食性障害患者の37%が現在、少なくとも1つの他の精神障害をもっていて、不安障害や気分障害が多いといわれています。また、薬物使用/乱用(22%)、ギャンブル依存(5.7-18.7%)のほか、買い物依存(7.4-18.5%)などをもっている場合があります11)

治療

  • (1)心理療法

    主要な心理療法には、認知行動療法、対人心理療法、弁証法的行動療法などがあります。英国国立医療技術評価機構(NICE)の診療ガイドライン12)によると過食性障害の治療はガイド付き自助(セルフヘルプ)プログラムが第1選択、集団認知行動療法が第2選択、個人認知行動療法が第3選択となっています。認知行動療法は直接的に、食事のパターンを正常化することを目的としており、患者がストレスに対処できるように行動や認知を修正し、むちゃ食いの頻度を減らします。その効果は長期間続き、精神病理も改善されます13)。対人関係の困難に焦点を当てた対人関係療法も同様に長期的な効果が示されています。さらに感情の調節、苦痛への耐性、対人効果に焦点を当てた弁証法的行動療法も、過食性障害や関連した精神病理を減らすのに有望とされています14)。最近ではむちゃ食い症状に対するセルフヘルプ形式の治療の有効性が示され注目されています。過食性障害に対するセルフヘルプの治療の多くは、認知行動療法に基づいたものです15)

  • (2)薬物療法

    薬物療法は過食性障害の主要な治療法ではありせんが、主に抑うつ症状と体重管理に対処するために、補助的に用いられることがあります。抗うつ薬であるセロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は、過食症の頻度を減らすのに効果的であることが示されていますが、減量に対して望ましい効果は認められていません16)

経過と予後

過食性障害の経過に関するエビデンスは未だはっきりしていませんが、概ね過食性障害の長期転帰は、他の摂食障害よりも良好であることが示されています。過食性障害が他の摂食障害に移行する傾向は小さく、神経性過食症への移行が増加したとする報告はごくわずかです。また、過食性障害患者の治療予後は、他の摂食障害よりも良好とされます。治療を受けた患者の50~80%が寛解に達しています。心理療法または心理療法と薬物療法の併用は、薬物治療のみの場合と比較して、より優れた治療効果をもたらしています17)

表1 代表的な摂食障害の特徴
図1 摂食障害と肥満との関係
表2 過食性障害の診断基準(DSM-5)
  • A

    反復する過食のエピソード、過食のエピソードは以下の両方によって特徴づけられる。

    • 1)他とはっきり区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。
    • 2)そのエピソードの間は、食べることを制御できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)。
  • B

    過食のエピソードは、以下のうち3つ(またはそれ以上)のことと関連している。

    • 1)普通よりもずっと速く食べる。
    • 2)苦しいくらい満腹になるまで食べる。
    • 3)身体的に空腹を感じていないときに大量の食物を食べる。
    • 4)自分がどんなに多く食べているか恥ずかしく感じるため1人で食べる。
    • 5)後になって、自己嫌悪、抑うつ気分的、または強い罪悪感を感じる。
  • C

    過食に関して明らかな苦痛が存在する。

  • D

    その過食は、平均して3カ月間にわたって少なくとも週1回は生じている。

  • E

    その過食は、神経性過食症の場合のように反復する不適切な代償行動とは関係せず、神経性過食症または神経性やせ症の経過の期間のみに起こるのではない。

文献5)より引用
文献
  • 1)Kessler RC, Berglund PA, Chiu WT et al: The prevalence and correlates of binge eating disorder in the WHO World Mental Health Surveys. Biol Psychiatry 73: 904-914, 2013.
  • 2)Cossrow N, Pawaskar M, Witt EA, et al: Estimating the prevalence of binge eating disorder in a community sample from the United States: comparing DSM-IV-TR and DSM-5 criteria. J Clin Psychiatry 77: e968-e974, 2016
  • 3)Dawes AJ, Maggard-Gibbons M, Alicia R, et al: Mental health conditions among patients seeking and undergoing bariatric surgery. A meta-analysis. JAMA 315: 150-163, 2016
  • 4)American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5). 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association; 2013
  • 5)染矢俊幸、神庭重信、尾崎紀夫 他: DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引. 高橋三郎、大野裕 監訳. 日本精神神経学会 編. pp165-166, 医学書院,東京,2014
  • 6)Raymond NC, Mussell MP, Mitchell JE. et al: An age-matched comparison of subjects with binge eating disorder and bulimia nervosa. Int J Eat Disord 14: 1-6, 1995
  • 7)Masheb MD, Grilo CM: Binge eating disorder: a need for additional diagnostic criteria. Comp Psychiatry 41; 159-162, 2000
  • 8)Wilson GT, NonasCA, Rosenblum GD: Assessment of binge eating in obese patients. Int J Eat Disord 13:25-33,1993
  • 9)McCuen-Wurst C, Ruggieri M, Allison KC: Disordered eating and obesity: associations between binge-eating disorder, night-eating syndrome, and weight-related comorbidities. Ann NY Acad Sci 2018.
  • 10)Grilo CM, White MA, Barnes RD, Masheb RM: Psychiatric disorder co-morbidity and correlates in an ethnically diverse sample of obese patients with binge eating disorder in Primary care settings. Compr Psychiatry 54: 209-216, 2013.
  • 11)Müller A, Mitchell JE: Internet shopping from a psychiatric perspective. Psychiatr Ann Slack Inc 44: 384-387, 2014
  • 12)National Institute for Health and Care Excellence. Eating disorders: recognition and treatment. NICE Clinical Guideline NG69. 2017 https://www.nice.org.uk/guidance/ng69 (accessed 27th November 2017).
  • 13)Hilbert A, Bishop ME, Stein RI, et al: Long-term efficacy of psychological treatments for binge eating disorder. Br J Psychiatry 200: 232-237, 2012.
  • 14)Telch CF, Agras WS, Linehan MM. Dialectical behavior therapy for binge eating disorder. J Consult Clin Psychol 69:1061-1065,2001
  • 15)Fairburn CG: Overcoming binge eating. Guilford Press, New York, 1995.
  • 16)Davis H, Attia E: Pharmacotherapy of eating disorders. Curr Opin Psychiatry 30: 452-457, 2017.
  • 17)Molinari E, Baruffi M, Croci M, et al: Binge eating disorder in obesity: comparison of different therapeutic strategies. Eat Weight Disord 10: 154-161, 2015

回避制限性食物摂取症

疾患概念と疫学

疾患概念

回避・制限性食物摂取症(Avoidant-restrictive food intake disorder:ARFID)は食物摂取の回避または制限によって、必要なエネルギーや適切な栄養の摂取を満たすことができず、著しい体重減少、栄養欠乏、経口栄養補助食品や経管栄養への依存、健康障害や心理的な社会的機能の障害を来すものです。近年DSM-51)とICD-112)に追加されました。DSM-5の診断基準を表1に示します。同じく食事量が減少する神経性やせ症と異なり、体型や体重へのこだわりやボディーイメージの歪みを認めません。年を考慮する必要はなく、子どもから大人まで診断を受けることがあります。

そして、発症の仕方によっていくつかのパターンがあることが分かっています。生来小食で食事に関心がなく低体重となるタイプ。食べ物の味や食感、においなどの感覚に過敏があり偏食が強く栄養量が十分に取れないタイプ。さらには、食事に関係した出来事、例えばお肉をのどに詰まらせたとか、たくさん食べた後に気持ち悪くなり大量に嘔吐した(窒息、嘔吐など)ことにより、食事や飲み込むことが恐くなるタイプなどが知られています。

一般人口におけるARFIDの頻度(有病率)は、オーストラリアや台湾の大規模な調査では、0.3%、0.3%とそれぞれ報告されました。本邦の一般人口における研究報告はまだありません。別項の神経性やせ症や神経性過食症にくらべて、年齢は低く、男性がなることもあり、比較的長い期間つづくことが報告されています。

症状

ARFIDの主な症状は、食行動の問題です。具体的には、食事量の減少、摂取可能な食事の種類が少ないこと(偏食)、栄養剤や補助食品への依存すること、飲み込みの困難、食事の拒否などがあります。一方で、そのほかの摂食障害に認められる、食物の破棄、盗食、排出行為(嘔吐や下剤の利用)、過食などは一般的に認めません。

腹痛や嘔気、少量の食事の腹満などの身体症状を認めることも多くあります。さらに低栄養に結果として、低身長、低体重、低体温、低血糖、無月経、徐脈などの症状を認めることもあります。また栄養バランスの問題から、貧血や皮膚症状にも注意が必要です。また、窒息や嘔吐などにともない急に発症した場合には、水分が飲めずに脱水になるケースもあります。

精神疾患併存症

ARFIDは、不安障害、注意欠陥多動性症、自閉スペクトラム症、強迫症と呼ばれる摂食障害以外の精神疾患を同時に認めることもよくあります。特に不安障害を同時に認めることはとても多く、入院が必要となった83名のARFID患者さんを調べた海外の研究では、上記の精神疾患が73%の頻度で同時に認められたと報告されています。

経過と予後

ARFIDが正式に精神疾患と考えられるようになったのは比較的最近であるため、経過と予後に関する報告は多くありません。ARFIDと診断された19名の患者さんの長期経過(平均14.6年)の報告では、19名の平均BMIは21.9kg/m2と回復し、16名の方が仕事につき自立していました。しかし、5名(26.3%)の方はARFIDを引き続き認めていて、さらに9名(47.4%)の方には不安障害などのその他の精神疾患を認めました。

治療

アメリカの摂食障害の団体のWebサイトには、ARFIDの治療上重要なこととして以下の5つが示されています。

  • 1. 食事に関係する不安や外傷的な出来事(喉に詰まる、嘔吐など)に対して、戦略的に対処する
  • 2. 栄養バランスと低栄養を是正し、成長が止まっているならばそれを再開させる
  • 3. 強制的に食べさせる、脅すなどの方法でなく、食物への構造化された頻回の曝露を通じて、食べることのできる食品の範囲を増やす
  • 4. 食事の際に食欲がなくならないように間食は自由に摂らせず、規則的な食事習慣を身につけさせる
  • 5. 心理社会的な障害を最小限にする

これらは、ARFID治療の基本的な関わり方であり、ARFIDのタイプに関わらず必要となる考えになります。特別な心理療法や薬による治療についてもさまざまな検討がされていますが、ARFIDは発症のきっかけや症状の程度のばらつきが大きく、まだ一定の見解は得られていません。

表1 回避・制限性食物摂取症の診断基準(DSM-5)
  • A

    以下の1つ以上で示される、適切な栄養摂取やエネルギーの必要性を満たすことが持続的にできない摂食または食行動の障害(例:摂食や食物への明らかな関心の欠如、感覚的な特性に基づく食物回避、摂食による悪い結果への懸念)

    • 1. 著しい体重減少(または期待される体重増加がない、または子どもの成長が遅いこと)
    • 2. 著しい栄養不良
    • 3. 経腸栄養や栄養剤への依存
    • 4. 心理社会的機能の著しい障害
  • B

    その障害が、食物を得ることができないことや文化的に容認される慣習ではうまく説明されない。

  • C

    その摂食の障害は、神経性やせ症や神経性過食症の経過中にのみ起こるものではなく、体重や体型の感じ方の障害は確認されない。

  • D

    その摂食の障害は、併存する医学的状態によるものではなく、他の精神障害ではうまく説明されない。その摂食の障害が他の状態や障害の経過中に生じた場合では、通常その状態や障害によるものとする程度以上であり、臨床的関与の追加を正当化するほど重篤である。

▶該当すれば特定せよ

寛解状態:かつては回避・制限性食物摂取症の診断基準をすべて満たしていたが、現在は一定期間診断基準を満たしていない

文献1)より引用
文献
  • 1)American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5). 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association; 2013
  • 2)International Classification of diseases 11th Revision (ICD-11)
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