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患者さんからよく聞かれる質問とその回答

摂食障害になると歯が悪くなるの?

A.

多くの患者さんが歯のことで困っているようです。中には若いうちから入れ歯になってしまう人もいます。

どうして歯が悪くなるの?

A.

多くは食べ吐きと、食習慣に関連しているようです。食べ吐きがなくてもチューイングなどの食習慣によっても悪くなってしまうようです。

予防法はないの?

A.

最も効果的な予防方法は摂食障害が良くなることです。でもそれまでの間にも出来ることもあります。

なぜ歯が悪くなるのでしょうか

酸蝕症さんしょくしょう(歯が溶ける)が原因のひとつです。

歯の表面の白い部分(エナメル質と言います)は身体の中で一番硬い部分なので、簡単には壊れません。でも唯一の弱点は酸なのです。だいたいpH5.5より低い酸性度になると歯は溶けてしまうのです(ペットボトルの紅茶やお茶でpH5.5~6.0くらいです)。ですから食べ吐きにより強酸性である胃酸(胃内pH1.0ですが、もちろん薄まって出てきます)を含む嘔吐物が毎日直接歯にあたれば歯は溶けてしまいます。これを酸蝕症さんしょくしょうと言います。

歯が溶けるとどんなことが起きるのでしょう

歯の見た目が変わっていく

歯の形が変わってしまいます。
見た目が悪くなります。
歯の形が凸凹になるので歯磨きでキレイに出来なくなります。

歯の裏側

エナメル質が溶けて象牙質ぞうげしつ(歯の内側の柔らかい層)が出てくるので虫歯になりやすくなり、虫歯の進行も早くなります。
歯の神経が近くなるので、冷たいものがしみたり、虫歯が進行すると神経が死んでんでしまいます。

症状の進行

放っておくと、嚙み合わせが無くなり、噛めなくなってしまいます。こうなると入れ歯を使う必要があります。

この酸蝕症さんしょくしょうは毎日お酢やワインなどの酸性の飲み物、食べ物を食べている人にも起きますが、そういった人たちが歯の外側が溶けてしまうのと違い、食べ吐きによる酸蝕は上の歯の内側などから溶け始める特徴があります。

しょく(虫歯)になりやすくなることも問題です。

摂食障害になると虫歯にもなりやすいようです。その原因の一つは前に書いたように、歯が溶けて堅いエナメル質が無くなり柔らかく虫歯になりやすい象牙質ぞうげしつという層が表面に出てきてしまうこと。また歯の形が凸凹になって磨きにくくなってしまうことです。しかし食べ吐きがなくても虫歯にはなりやすいことも分かっています。これには時間が大きく関わっているのです。

虫歯は歯に食物(糖)がくっついてそれを細菌が食べて酸を出すこと(代謝)によって歯が溶けて穴が開くという仕組みです。しかし甘い物を食べたら絶対に虫歯になるわけではなく、食べ物が口の中に入って歯が溶け出すまでの時間が重要なのです。

歯への影響図

この口の中が酸性になって歯が溶け出しやすい時間が長ければ長いほど虫歯はできやすくなります(図1)。

図1 食習慣異常と虫歯のリスク

食べ吐きに何時間もかかればもちろんのこと、食べ吐きが無く食事も取らない代わりに常に飴を舐(な)めたり、チューイングをすることは食べる量が少ないにも関わらず、規則的に食事を摂るよりも虫歯になりやすいのです。

歯を守るためにできること

もちろん摂食障害が改善して食べ吐きが減り、食事が規則正しく食べられればなんの問題もなくなります。でもそれには時間がかかることも多いでしょう。その間に少しでも歯のためにできることとはなんでしょう。大きなテーマは3つです。

  • 口の中が酸性になる時間を短くする
  • 酸に強い歯を作る
  • 歯医者さんと協力して歯を守る

歯を守る唾液

虫歯にも酸蝕さんしょくにも共通する原因の一つ、「口の中の酸」を中和してくれる最も有効な働きを唾液がしてくれます。また溶けてしまった歯の表面を一部修復してくれる(再石灰化)のも唾液の仕事です。唾液がどれくらい出ているか、唾液が酸を中和する力がどれくらいあるか、それによっても歯を守る力が変わってきます。

食べ吐きについて

  • 食べ吐き直後に寝てしまうのは危険

    食べ吐き後の口の中は糖や酸がいっぱいです。その上、寝てしまうと歯を守ってくれる唾液の出る量は著しく減ってしまい酸蝕や虫歯のリスクは跳ね上がります。

  • 食べ吐き直後はよくうがいをして30分後に歯ブラシ

    食べ吐き直後の歯の表面は酸で柔らかくなっています。その表面を歯ブラシで擦るとその柔らかくなった層までりとってしまいます。歯ブラシをせずにうがいなどで口の中の酸を十分取り除いておくと唾液の中からカルシウムなどの歯の成分が溶け出し柔らかくなった層を再び硬くしてくれるのです。(再石灰化)これを待ってから歯磨きをする方が歯の溶ける量は減ります。

  • 炭酸飲料を飲みながら吐くことはやめましょう

    水をある程度飲みながら吐くと、何も飲まずに吐くより歯が溶けにくいという結果が出ています。しかし炭酸はそれ自体が酸性なので水など酸を中和できるものに変えることも有効です。

飴やガムなどの食べ方

  • 立て続けに食べると、口の中がずっと酸性になって虫歯のリスクが上昇します。

    できればデンタルガムやデンタルタブレットのような砂糖を含まないものに変えましょう。無理ならば何回かに一回を変えましょう。それも難しければ一度食べ終わったらよくうがいをして口の中を酸性から戻して、少し待ってから次を食べるようにしましょう。

    またキシリトールガムなどは噛むことによって唾液がたくさん出るだけでなく、虫歯予防にもなると言われています。

    柑橘類かんきつるいや炭酸飲料、飲むお酢など酸性度の高い飲み物も同様です。途中休憩を入れてうがいなどで口の中の酸を中和しましょう。

普段の歯磨き

すでに歯が溶け始めてしまった場合は歯の表面が柔らかくなっている可能性がありますその場合普通の歯ブラシでは歯の表面を傷つけてしまいます。ですから柔らかい歯ブラシを使って溶けて形が変わってしまった歯を丁寧に磨くことが大切です。また歯磨き粉も研磨剤の入っていないもので、できれば歯を強くするためにフッ素が配合されたものが良いでしょう。

そして、前にも書いたように寝ている間は歯を守ってくれる唾液の出る量が減ってしまうのです。つまり食べ吐きの後そのまま寝てしまうと口の中は虫歯を作る菌は活躍しやすく、嘔吐による酸は中和されにくく、歯を溶かし続けてしまいます。ですから必ず歯磨きをしてから寝るようにしましょう。歯磨きの後は食べ吐きをしない、1日の最後は歯磨きで終わるということが大切です。

どんなに頑張ってもやはり自分一人では限界があります。歯科ではそのサポートができます。歯を綺麗にするだけでなく磨き残しのチェックをして日々の歯磨きの精度を上げることができます。家庭で使えるものより高濃度のフッ素を使い、歯を強くすることができます。

また予防に欠かせない唾液の出る量や酸を中和する力を測定できる場合もあります。

その上、定期的に通院することにより歯の溶け具合の確認や早い段階で虫歯を見つけることができ、歯を削る量の少ない治療で治すことが可能となることも多でしょう。

このように自分一人では難しくても歯の専門家たち(歯科医師や歯科衛生士など)と一緒に頑張れば上手くいくことも多いと思います。そのためにはまず自分の症状をしっかり話して理解してもらう必要があります。その上で自分に合った、そして効果のある予防方法や治療方法を考えてもらえるからです。

人と人ですから合わない場合もあるとは思います。しかし、諦めずに自分のことを理解してくれ、信頼できる歯科医療者を探しておくのはとても大切なことだと思います。

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